再びの襲撃
ガラス戸と、その外側にある木戸まで閉めて、昼でも薄暗い中ミリエルが呟いた。
「来ましたね」
マルガリータも答える。
「ああ、来たな」
今現在館の前庭あたりで交戦が始まっていた。
今回は以前のような愚を犯さないため、木戸までぴったりと閉めて、その前に、家具でバリケードを作っていた。
ミリエル姫は、天蓋つきの寝台の中カーテンを下ろした状態で座り込み震えている。
外部の明かりはまったく入らないので、ランプの明かりで二人は話している。
「マルガリータ様、私は、ここでミリエル姫に付いています」
「しかしいいのか、ミリエル姫付きの侍女がいるだろう」
「隣の部屋の隅で放心状態です、しばらく使い物になりませんね」
狭い隅で身を寄せ合って震えている侍女達の姿を思い出しながらミリエルは答えた。
「そうか、ミリエルいざという時。決して戦うな」
言われてミリエルは目を瞬かせる。
「うかつに抵抗すれば、殺されるのが早まるだけだ」
ぽりぽりと頬をかきながら、ミリエルはマルガリータの言葉を聞いている。
「一対一なら不意を付けば何とかなると思うんですが」
「それは戦いを知らないからいえることだ」
マルガリータは幼子に言い聞かせるように諭す。
「でも、誰にとっても最初はありますよね」
ミリエルは引く気がないようだ。マルガリータは呆れた。こんな細い華奢な少女に何ができると言うのだ。
「なら好きにしろ」
強情な少女に言い捨ててマルガリータは部屋を出た。
ミリエル姫の護衛。これがマルガリータにあてがわれた仕事だ。ミリエルという同じ名前の平民の少女ではなく。
適当に返事をして置けばよかったかな。ついムキになってしまったが元々嘘をついていたのは自分だ。それを考えれば悪いのも自分。
少々後悔しつつミリエルは、寝台の脇の小卓に添えられた椅子に坐る。
ミリエルの無礼な態度に、寝台の上のミリエル姫は、何も言えない。
「たぶん、食べ物とかとって来れなくなると思うんですけど、しばらく水だけで耐えられますか」
呑気な言葉に、ミリエル姫ことコンスタンシアは無言を通した。
寝室には二人だけしかいない。
侍女達は隣室に隠れている。
「とばっちりを食わないようにはわかるんですけど、決心が早すぎませんか?」
ミリエルが隣室を横目で見ながら呟く。
彼女達の判断は当然だ。彼女達は当然ここにいるのがコンスタンシアだと知っているのだから。
「ここで私が死ねば都合がいいとおもってるんでしょう」
思わず出た本音をミリエルは静かに聞いている。その表情に驚きはない。
「私がリンツァーの血を引いていないとしたらあなたは驚くの」
「いいえ、最初から知っているから」
ミリエルの返事にコンスタンシアは息を呑む。
「何故知っているかは教えない。貴女がそちらの情報を話してくれるまでね」
「何故何も言わないの」
「私の都合よ」
ミリエルは笑った。
「誰かに話してもいいよ、私が貴女を偽者だって知ってるって」
思わず口に出してしまったことから予想外の返事を聞いてしまいコンスタンシアの許容量はあっさり振り切ってしまった。