ウォーレスの驚愕
ウォーレスは、定期報告のため、カティン商会サヴォワ支部へと向かっていた。
今回は馬を走らせて。ウォーレスは、国外では傭兵働きの多いため、他の商工会員はあまりやらない馬術の腕も確かだった。
他の特殊部隊員ですら歩かせるのがやっとと言うていたらくの中。岸波に馬を操ることができた。
ウォーレスは、元々商工会員として商取引のついでに傭兵働きをしているので。商談や仕入れと言えば比較的簡単に館から出入りできた。
それで疑われないのは、やはりサフラン商工会の名前が大きい。
サフラン商工会は決して裏切らないをモットーに販路を広げている。
それは黒獅子傭兵団だったときも変わらない。変えられないモットーだ。
広がる農村地帯の一角に、街と、商店の密集した区画がある。
ここが、この界隈の流通拠点だ。
カティン商会の看板をくぐると、馴染みの店員に、仕事がてらの雑談を始めた。
「そういえば、青狼が動いてるらしいぞ」
「聞いていないが」
「でも、ミリエルがいた」
とたんに店員は身を乗り出した。
「どこに」
「俺の雇い主のところで女中をやっていた」
店員は声を潜めて囁く。
「ここだけの話だが、ミリエルは不名誉除隊処分済みだ。だから商工会は一切関係がない」
言われて一瞬ほうける。
「馬鹿な、ありえない」
ウォーレスは、思わず店員の襟を締め上げた。
「どうしてミリエルが不名誉除隊になるんだ。そんなことはありえないだろう」
「確かにお前はミリエルと親しかったが」
「そんな問題じゃない。ミリエルはまだ十五歳。雑貨屋の店番しかしたことがないんだぞ、そんな奴がしたくても不名誉所帯になるような罪を犯せるはずがないだろう」
まったくその通りだった。不名誉除隊はよっぽどのことをしでかさなければ下されるはずがない処分だ。しかし何事にも例外がある。
「ミリエルの父親は、貴族だった。正式に貴族籍に入れられたそうだ」
サフラン商工会構成員は平民のみ、暗黙の了解でそう定められている。
「じゃ、何であいつは女中なんかしていたんだ」
「何でだろう?」
その時、ウォーレスは気付かなかった。
店番のいる奥の部屋で、二人の話に聞き耳を立てている物がいたことを。
彼は、パーシヴァルの部下の一人だった。ミリエルが立ち寄ったときのためとカティン商会の一部に寄宿生活を送っていた。
彼はミリエルの名前にすばやく反応したのだ。
半ば諦めていたミリエルの情報だ。壁に張り付いて一言も聞き漏らすまいとする。
しかしウォーレスの雇い人の名前がなかなか出てこない。じりじりと気持ちばかりが焦る中。無常にもウォーレスは仕事の話を始めてしまった。
商談が終わり、ウォーレスが帰った後やっと店番からウォーレスの雇われ先を聞きだすと、彼はあたふたと、主パーシヴァルのもとへと馬を進めた。