ミリエルの憂鬱2
マルガリータはミリエルから内通者が殺された話を聞き表情を厳しくした。
傭兵達の数は少ない。その中に更に内通者がいるとなれば、味方はもっと少ないと考えるべきだ。
この館に駐在している兵士も数は知れているし、マルガリータの見るところ錬度も足りていない。
ミリエルも深刻な顔をしている。
「ミリエル、今からでも遅くないかもしれない。今のうちにどこかに逃げろ」
ミリエルは首を横に振る。
「ミリエル、私に義理立てしている場合じゃない。それに今の状況ではお前までかばえる自信がないんだ」
「自分の身は自分で守ります」
ミリエルは硬い声で答えた。
ミリエルはミリエルで悩んでいた。ウォーレスあたりに、仲介してもらって自分も傭兵として登録してもらおうかと。
しかしミリエルは自分の見た目をよくわかっていた。
ウォーレスすら傭兵にとても見えない外見だが、ミリエルは更に上をいく。
ミリエルを見て傭兵だと気付いた人間はいままで誰もいなかった。それがミリエルの強みだと思っていた。
しかし、今ミリエルは目の前のマルガリータを説得するすべはない。だが今危険でもここを離れるわけには行かない。
それはレオナルドを待つため。
決して望んで婚約したわけではない婚約者。会おうと会うまいと何の痛痒も覚えないはず。自分は意地になっているのだろうか。
一度決めたことだから。一度会ってから戻るかどうか決めると。
さっさと決めてしまいたいからだろうか、いつまでも宙ぶらりんなのが気に食わなくて。
「マルガリータ様のためだけではありません、ここにいなければならない理由があるのです」
「その理由とは」
「今は言えません。ですが時がきたら必ずお話いたします」
マルガリータは溜息をついた。
「それなら、私も死ねないな。ぜひともその話を聞きたいから」
マルガリータがまるで冗談のように語った言葉、しかし、今の状況ではそれが冗談で終わる可能性はきわめて低い。
「姫君のところへ行く時間ですね」
ミリエルが時計を指差す。
二人は連れ立って、この館で一番大きな客間に向かう。
コンスタンシアは困惑していた。新たに護衛として傍に仕えることになった女性騎士と、その傍らの少女を前にして。
あの時、とっさに救いを求めたが、今、目の前に控えている少女は、本当に小さな、おそらくコンスタンシアより年下の少女だ。
その傍らにいるのは、黒髪と黒い瞳の騎士。背も高く、肩幅もがっしりとしてとても女性とは思えない。
「マルガリータ・ツェレと申します、この隣にいるのは私のメイドです」
少女はぺこりと頭を下げる。
「ミリエル・モニークと申します」
コンスタンシアは、思わず立ち上がりそうになった。
「畏れ多くもミリエル姫と同名、私のことはミリーとでも及びください」
少女がにっこりと笑う。コンスタンシアは、ベールの奥で震えることしかできなかった。