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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
58/210

ミリエルの憂鬱

 ミリエルはそれでも夜明けとともに目が覚めた。

 本当なら今頃は水汲みに言っているはずの時間だが、免除といわれたので、行っても迷惑そうな顔をされるかもしれない。

 そう思って、ミリエルは寝台の上で、起きるべきか逡巡したが結局起きることにした。

 髪を梳り、編んで背中にたらすと顔を洗いに出た。

 女中の制服を着こんで廊下を歩くと妙に人通りが少ない。

 普段ならば清掃や、食材の準備などで使用人たちの何人かは歩いているのだが、今はミリエル一人だ。

 昨日の騒ぎのせいだろうと端的に判断すると、ミリエルは、水場へと向かう。

 水汲み場にも案の定誰もいない。

 しかし、周辺に武装した男達が、たむろしているのが遠目に見えた。

 ミリエルは食材をさして扱わせてもらっていない。しかし、この館にそれほど多くの食料が備蓄されていないことはうすうす察していた。

 毎日のように穀類の配達が来る家で大量の備蓄はまずないだろう。

 それに使われている食材も問題だ。

 保存の利く食材がそれほど日々の食事に多くない。

 敷地内に畑はあるが、せいぜい数人前、今この館に滞在している人数で食べれば、数日で食べきるだろう。

 もちろん、備蓄がまったくないということではないが、ここ数日でミリエルが頭に入れた館の見取り図と、食糧備蓄庫の面積、それを考えると、定期的に新鮮な食材を買い入れているのではないかと思われる。

 これは貴族でもかなりな贅沢の部類だ。ましてやこの国は内乱状態。それでなおかつそういう生活を維持できるとは、この領主相当なやり手か、それとも影であくどい真似をしているのか。

 きょろきょろとミリエルは、周囲を見渡す。

 そして人目がない場所に向かうと、ゆっくりと腕を上げる。

 サン・シモンで覚えた舞踊を一さらい踊ってみる。

 ゆったりと手を広げ、足を大きく上げる動作がある。この踊りを踊るときは異国の民族衣装を着るのは、スカート姿で踊るのは余りに危険という識者の声があったからだ。

 身体を大きくかしげる動きをしながら、ミリエルは、確かに、めくれるなと、太腿まで露出したスカートの裾を慌てて直した。

 軽く身体を動かして、一息つくと、ミリエルは食堂へ向かった。

 これまではよかったかもしれないが、これからは食糧事情がかなり悪くなる可能性がある。

「こういう時、所属って不便よね」

 一人ならば山野に分け入りウサギでも猪でも獲って食べるのだが。

 初めて猪を倒した十三のときとは違う。今は塩さえあれば干し肉も作れるし、捌くこともできる。そう天を仰いで祈るミリエルだが、残念ながらこのあたりに、猪が獲れるような山はなかった。

 ふとミリエルは、クライストの姿を見かけた。

「おはようございます」

「さっきお前何してた?」

「体操ですよ、よかったらクライストさんもどうです?」

「いや、遠慮しておく。それはそうと、昨日姫君の窓から落ちた奴な、死んだわ」

 言われた言葉にミリエルは思わず目を剥いた。

「打ち所が悪くて」

「違う、刺し殺されてた」

 ミリエルは悲鳴をかみ殺した。

「ええと、確か昨日聞いた話では、傭兵に成りすまして、ここに潜り込んで誰かに情報を漏らしてそれでお姫様を狙ったってことでしょ」

「ざっくり言えばそうだな、どうやら他にも内通者がいるらしい、そいつに口を塞がれたってことだ。ツェレに伝えておけ、あまり分のいい仕事じゃなさそうだ」

 ミリエルはコクコクと頷いた。

 顎を砕いたので、口が利けないといわれてミリエルは安心していたのだが、それに、まさか十五の少女に叩きのめされたなんてこと口が利けたとしても言いたいことではないだろうとも思っていた。

 傭兵としての沽券に関わるし、この業界、舐められたら終わりだ。

 しかし、死んだと訊いて思わず自分が殺したのかと思い心臓を詰めたい手で鷲づかみにされた気がした。

 空腹なのに吐き気がした。もちろん叩き落した時、死ぬかもしれないと思っていたが、殺るか殺られるかの興奮が消えた後の死亡宣告は案外きつかった。

 無論ミリエルは刺し殺していないが。確実に人の死に関わったその事実が重かった。


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