サン・シモンの大祭 3
女性用控え室と言うものは基本男子禁制だ。なのに何故ここにこの男はいるんだろう。
それがミリエルの感想だった。
王室騎士団の制服を着た若い男だった。騎士団のトレードマークの刈り込んだ黒い髪をしている。
黙って立ってさえいれば、なかなか精悍な青年だったが、いかんせん、黙って立っていたとしても、不届き者としか言いようがない。
何故ならここは女子更衣室もかねていたからだ。
幸い服を脱いでいた女性はいなかったが。しかし唐突に彼は、たまたま近くにいた少女の衣服に手をかけた。
布の破れる音が静まり返った中響いて聞こえた。
胸元をむき出しにされて、少女は甲高い悲鳴を上げる。
「なんてことを、エチエンヌ」
とっさに汗をぬぐうために用意された手ぬぐいを蹲ってしまった少女に渡そうとしたもう一人の少女が今度は拘束され身体を撫で回される。
「イボンヌを放しなさいこの不届き者」
別の少女が部屋の隅に立てかけてあった箒を手に男を威嚇する。
「やってみろよ、そうしたら困る羽目になるのはお前らだぞ」
男は歪んだ笑みを浮かべる。
「俺に指一本でも触れてみろ、お前らが卑怯な手段で、襲撃をかけたと上に掛け合ってやるよ」
男は歪んだ笑みを浮かべる。
「ああ、期待してなかったんだが、結構綺麗どころがそろってるじゃないか」
そう言って身体を押さえ込んだ少女の顎をつかんでその容姿を検分する。
「お姉ちゃんに酷いことしないでよ」
思わずミリエルは叫んでいた。
「何だ、お前が相手してくれるのか、ああこういう毛色の変わったのも面白いか」
そう言って少女を放しミリエルに手を伸ばそうとする。
扉が叩き開けられ、中の様子に仰天した顔でミリエルの母親が飛び込んで来た。
「あんた、うちの子に何してくれるのよ」
そのまま一直線にミリエルに駆け寄り懐に抱え込む。
「あれ、あんたも年増のわりに綺麗じゃないか」
そう言ってミリエルの母親に手を伸ばそうとする。
「何をしているんだ」
今度は野太い男の声が聞こえた。
「黒獅子」
現商工会長が扉の前に佇んでいた。
その後ろにピンクの衣装が見える。男が乱入してきた時、その場から逃げた少女の一人が、助けを呼んできたらしい。
「叩きだせ」
抑えた声で告げられた言葉に、商工会長の後ろから出てきた機動隊の強面が二人、両脇から男の身体を押さえつけて女子控え室から引きずり出す。
「適当なところに捨ててこい」
そのまま服を裂かれた少女を痛ましそうに見やる。
「エチエンヌ」
再び入って来たものがいる。それはミリエルの顔見知りで。服を裂かれた少女、エチエンヌの兄だった。
「あいつがやったのか」
問いかけの形の確認。ミリエルや他の少女はこくりと頷いた。
「そうか、わかった」
そのまま彼はにっこりと笑った。笑ったまま宣言する。
「殺してやる」
笑顔だった。全開で笑っている。なのに目が笑っていない、どこか鈍い刃物のような光を放っていた。
これは厄介なことになる。ミリエルはそう確信していた。