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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
46/210

焦燥とそれ以外のもの


 騎馬で粛々とパーシヴァルは進む。

「思うんだけどね、偽ミリエルを仕込むのは僕達だけだろうか」

 背後の騎士に尋ねる。

「偽ミリエルといいますと?」

「ミリエルはさ、肖像画も出回っていないし、容姿に対する情報がほとんどない。だから簡単にどこかその辺の女の子を連れてきて、この子がミリエルですよって主張すれば、それで通るんじゃない」

「兄の貴方の眼をごまかしてですか?」

「僕が鑑定できないようにすれば時間は稼げるよね?」

 言われた言葉に騎士は息を呑む。

「つまり閣下のお命を狙うやからが現れると言うことですか」

「こうなってくるとそれも警戒しなきゃだめかな」

 パーシヴァルは馬を操りながら、そんなことを呟く。

「もちろんこちらにミリエルが帰ってくれば話は別だ。命を狙われるのはあの子だよ」

 くすくすと何がおかしいのか笑っているパーシヴァルを気味の悪いものを見るように騎士は凝視する。

「だって笑えないか、襲った奴が可哀相だ」

 ミリエルの戦闘能力は今のところ知られてはいない。ある意味究極のブービートラップといえそうだ。

「それであなたはどうするんです」

「どうもしないよ、頑張るのは君達だ」

 あっさり言われて目が点になる。そう、戦闘能力皆無の彼が死角に襲われた場合、相手をするのは自分の役目だ。

 つまりこれから過酷な目にあうのは間違いなく自分だと言うことで。

 真剣に業務放棄を考えたくなった。


 さして大きくもない館の一室に、レオナルドは滞在していた。前王への忠実さだけがとりえの領主の館だ。

 彼自身はさして権力を持っていない。そして財力はそこそこ程度。武力皆無。

 だからこそ、隠れ蓑に使うには有効な相手だった。

 今この館にいるのは、彼と十人ほどの忠実な騎士。そして、ミリエルのドレスを着させられた下働きの少女だけだった。

 秘密ルートで届けられた手紙を確認している彼のもとに、パーシヴァルの帰還が告げられた。

 パーシヴァルと、護衛の騎士二人だけがレオナルドの元に戻った。

「ミリエルはまだそこにたどり着いていなかった。念のため人を駐在させることにした。それと、いざという時頼れと祖父が手配した場所は後二箇所ある。そこにも人を派遣しておく」

 パーシヴァルの顔にさして焦燥の色はない。

「俺の情報網に、ミリエル姫に関するものは一切ない。叔父あたりがミリエル姫を手に入れたら、盛大に騒ぎそうなものだが」

「君の叔父さんて、確か五十に手が届くよね、それが十五の女の子をどうしようって言うのかな」

 リンツァーにいたころに入って来た情報に寄れば伯母は先年亡くなったそうだ」

「それでミリエルと再婚? 冗談じゃないよ、あの子だって嫌がるだろう」

 ミリエルがリンツァー国王の頭蓋骨を割るのを断念したのは相手がレオナルドだったからと言うのもあるだろう。その叔父あたりに嫁に行けと言っていたら確実に、頭蓋骨どころか折れる骨のすべてをへし折りかねない。

「しかし、それならミリエルはどこに行ったんだ」

「まだどっかの山の中に潜伏してるのかも」

 パーシヴァルとしては一番ありそうなことを行っただけなのだが、レオナルドはきつい目で彼をにらんだ。

「君は存外薄情なんだな、仮にも妹がそんな目にあって、どうしてそんなに平然としていられるんだ」

「ここで泣いても、何にもならない。無駄なことはしない主義だ」

 パーシヴァルはきっぱりと言い切った。

「打てる手は打った。今できることは待つことだけだ、それじゃ、君のために軍隊を仕立ててくれる人と頑張ってやり取りしなよ」

 レオナルドは拳を握り締めたまま俯いた。


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