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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
42/210

王太子妃の憂鬱

 洗濯した服が乾き、ミリエルがようやく人心地付いたときには、マルガリータに拾われて、半日が経過していた。

 その際、マルガリータが着替えるのを見て、間違いなく女性だと確信した。

 長い黒髪を後ろでくくったきりの化粧けのない顔。その容姿は平凡と言うには少々いかつくきつい印象だ。そして鍛えてみっちりと筋肉の付いた体型も女性らしさとは程遠い。

 もっともミリエルも、筋肉に食いつぶされて、胸は平均よりかなり小ぶりなのだが。

「昼は、届けてもらったけれど、夕食は下の食堂で食べるか?」

 そう問いかけられてミリエルは、こくりと頷いた。

「あの、一つ訊いていいですか? マルガリータ様は、どうしてお国から出られたんですか」

 おずおずとしたミリエルの問いに、マルガリータは面倒くさそうに答えた。

「私には、似ても似つかない姉がいてな。ずいぶんと美貌を誇った女で、その美貌を武器に、王太子の愛妾になった」

 王太子の呼称にミリエルの肩がびくついた。

「で、今は王太子を誑かし、国を傾けた毒婦と呼ばれている。そんな女の妹として、国許にいるのは身の破滅だからな、それで逃げてきた」

 王太子の愛妾となれば、貴族以上の身分。つまり信じがたいが、マルガリータは貴族のお嬢様と言うことになる。

「ええとそこのとこ詳しく教えてもらえますか、確か」

 ミリエルは国名を口に乗せる。そして確かその辺で政変が起こったとかごたごたしたと言う話を聞いたことがあるのを思い出した。

「もともとの発端は隣国がもう一つ向こうの隣国と戦争になったことだ。その時前後して王太子妃が嫁いできたんだが、本国がそんな状態で、影が薄いというか、周囲の人間に無視されると言うか、王太子本人も王妃を同行するべきところで姉を連れ歩いている始末で、ところが事態が動いたんだ」

 そこでマルガリータは言葉を切る。

「王妃の母国が戦勝国になって、隣国を併呑した」

 その話なら知っていた。近隣まれに見る大事件になったと商工会本部で大騒ぎになったはずだ。

 ミリエルはほんの半年前の喧騒を思い出した。

「その直後だが、王宮で洗濯女が大怪我をした。その大怪我と言うのが階段から転げ落ちたと言うものだったが、階段に油が塗られていた。そして、王太子妃が、その階段を通って早朝の散歩に行く習慣だった」

 洗濯女は、洗濯物がクッションになって一命を取り留めたとか。

「そして、わが祖国と王太子妃の母国の会談で王太子妃は自国の大使に救いを求めたんだ。このままでは殺されると」

 マルガリータは思い出す。その時、近隣諸国の賓客も大勢いた。

 その真ん中で、王太子妃が、このままでは殺されると叫んだのだ、結構な大事になった。

「まあ、それで、洗濯女の事故とか、姉が毒薬を購入した事実とかが色々とばれて、王太子夫妻は離婚、わが国はとんでもない恥をかいたわけだ」

 ミリエルとしても口が挟めない。

「それに今までの王太子妃の悲惨な生活も取りざたされて、なんでもベランダに食べられる植物を繁殖させて飢えをしのいでいたとか、毒殺を恐れてねずみを飼っていたとか」

 そして王太子は、すべてマルガリータの姉、マルグリットに責任を押し付けたらしい。もっともそれは、隣国の王太子妃の親族に一蹴された。

「たかが男爵令嬢が、王太子妃に攻撃できるはずがない。それをしたというならば、相応の身分の後押しがあったからだと、まあ、王太子の逃げ得は許さないという姿勢を貫いてくれたのがせめてもの救いか」

 話についていけないと思ったが、ふとミリエルは思う。洗濯女の事故は妙に都合がよすぎないかと。まさか、とミリエルその国の王太子妃に疑いを覚えた。

「まあ、それで父は失脚、まああの姉に誑かされる程度の男に望みをかけたのが馬鹿だったとしか言いようがないな、状況が変わったときの掌の返しっぷりといい、その程度の男だった」

 ふと自分の鞄の底に隠した指輪の事を思い出した。ミリエルがサヴォワの王太子と婚約した証。

 ミリエルは、身につまされると言うのはこういう状況かとしみじみと思う。

「王太子妃と言うのは」大変な仕事なんですね」

 今まで忘れていたレオナルドのことを思い出す。ずいぶんあっさりと自分との結婚を了承したが、女はひとりじゃないしとか言って別の女囲ってんじゃ。

 むくむくと不信感がこみ上げてきた。


 ラスト、ミリエル理不尽ですね、可哀相なレオナルドは次回に出ると思います。

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