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暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン編
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サン・シモンの大祭 2


 ミリエルのモットーは堅実、地に足がついた生活。年頃の少女としては少々夢がないが、それは家族が口をすっぱくして物心ついた時からミリエルに言い聞かせてきたことだ。

 そんな彼女は、まわりの少女が、いつか王子様が、とか、将来玉の輿になどと目を輝かせるのを横目に、真面目に堅実な将来を考えていた。

 とりあえずは、今の雑貨屋を継いで、真面目そうなお婿さんを迎えて。

 ミリエルは母親が堅実と何度も言うのは、自分の経験からだろうと見透かしていた。

 ミリエルの母親は、一度嫁いだが、赤ん坊のミリエルを抱えて出戻ってきたと言う。

 何でも難しいお家だったと祖父が一度だけ話してくれた。

 母はどうやら玉の輿に乗り損ねたらしい。

 だからミリエルは玉の輿を夢見ない。その夢が現実になったとき、結構ろくでもない人生が待っているらしいと五歳にして悟ってしまった。

 そして舞踊の練習の合間、自分より年かさの少女達が、これから、王宮に女官奉公が決まったと嬉々として語るのを冷めた目で見ていた。

 女官奉公は確かに玉の輿最短距離といわれているが、女官奉公して玉の輿に乗ったと言われるのは、ミリエルの母親世代に一人いるきり、その前となると祖母くらいの年のはずだ。

 つまり、今から玉の輿に乗ったつもりでいる少女達もいずれ現実を知ることになる。

 ふっとミリエルは皮肉に笑う。

 ミリエルの堅実一番をよく知っている少女達はいつものことだと流した。

 休憩が終わり、再び、一糸乱れぬ動きで、手を上げたり、片足立ちをしたり、舞踊の型を決めていく。

 ゆったりとした動きだが、ゆっくりと腕を振るのは意外に筋力を使う。

 終わる頃にはしっとりと汗ばんで、髪もぺったりと頭皮に張り付いている。

「今年はね、外国の来賓も来るんだって」

 きゃいきゃいと語られる言葉に、外国の高貴な身分の方が、華麗に舞う私に一目ぼれ、などと獲らぬ狸の皮算用に忙しいのがわかる。

 ミリエルは興味がないので、そのまま帰ろうとした。

「そういえば、あんたの父さん、外国の人なんでしょう」

 唐突に言われて、ミリエルは戸惑った。

 以前祖父から難しいお家としか聞いていなかったが、外国だとは思わなかった。

 母が出戻ってきた理由がなんとなくわかった。身分と文化が違えば、それを乗り越えることは確かに難しい。

「ごめんね、詳しい話は聞いたことないの」

 苦笑してそう答えると、相手もそれ以上追及してこなかった。

 自分は外国で生まれたのか。思わないところから出た情報にしばらくミリエルは考え込んだが、結局それ以上考えるのを止めてしまった。


 そして大祭当日。ミリエルは開催前座の舞踊に参加していた。

 ピンクの衣装は、たっぷりとした袖のついた上着と、たっぷりと見ごろを取ったズボンだった。東大陸の民族衣装らしい。

 髪型も丸いお団子に結い上げて、衣装と友布のリボンでまとめられている。

 鏡で確認してみたが、われながら可愛いとミリエルはご機嫌だった。

 商工会の楽団の演奏にあわせて、踊る少女達は、その愛くるしさから周囲の評判も上場だった。

 そう、ここまではよかった。ここまでは。

 女性専用控え室に、乱入してきた不届き者が現れるまでは。



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