旅立つまでの時
もう少しでサヴォワ編になるはずなんですが、停滞気味です。
パーシヴァルは国王に面会を要請した。
その時、国王はレオナルドと面談中だった。
「そのままで結構ですよ、僕のお願いもそれに関係していますから」
気弱げな笑みで、パーシヴァルは執務机の脇に立つ。
「お願いとは、ミリエルがサヴォワに旅立つとき、僕もご一緒させていただきたいのですが」
その言葉に二人ともに仰天した。
「正気か?」
レオナルドが恐る恐る聞く。それも当然だ。パーシヴァル侯爵といえば、弱腰、軟弱の代名詞と呼ばれている。
そのパーシヴァルが内戦状態のサヴォワにともに旅立つというのだ。驚かないはずがない。
しかしパーシヴァルは本気だった。
「君は荒事が苦手なんじゃないのか」
レオナルドが問いただす。レオナルドがリンツァーに半ば亡命のような形で滞在しているうちに親しくなった友人。と言えば聞こえがいいが、実際にはあまりに弱弱しすぎて、ほうっておくに置けなくなったというほうが正しい。
王弟殿下のご子息と、それなりに身分の高い貴公子のはずなのに、はるかに身分がしたの人間にもコケにされる有様。
そんな彼を知りすぎるほど知っている。
実際にそう無能な人間ではないのも知っているが、それでも戦場で役に立つ人間かと問われれば力強く否と応えられる。
「でも、ミリエルも行くだろう。お姫様が二人いると思えばいいよ」
足手まといになる気満々の台詞に思わず脱力する。
「危ないからだめ」
「だめって行っても付いていくよ」
その言葉に思わずレオナルドは頭に血が上る。
「いい加減にしろよ、何もできないと知っていて、わざわざ今のサヴォワに来ようとするその行為がどういう意味を持っているか分かっているのか?」
「何もできないわけじゃないのは君も知っているだろう」
パーシヴァルは譲る気がない。
「君が、サヴォワに行こうという気を起こしたのは、ミリエル姫のためか?」
「もちろん、そうだよ、でも、それだけじゃない、君のためでもある」
無能ではない、おとなしく、気弱な性質だが、人と人の関係を見抜いたり、それを利用したりする才能には恵まれている。
彼の前で悪事を働いたものがいても、即座に告発したりはしない。その代わりゆっくりと、周囲の人間を利用して、追い詰めて破滅させる。
その手際に関しては評価している。
しかしそれも宮廷の中だからこそのことだ。実際にその外で通用することではないと思っている。
一歩も引く様子のない二人の言い合いに、待ったをかけたのは国王だった。
「二人ともいい加減にしろ、この場合、パーシヴァルはレオナルドに負担をかけないように、自前で補給も装備も用意して付いて行く」
「陛下、それでは、」
レオナルドが不満げに口を挟もうとするのを制して言う。
「そして、ミリエルのことは、双方で責任を持つ」
「陛下お言葉ですが、ミリエル姫は私の婚約者です、責任を持つのは当然です」
「僕の妹だし、責任を持たなきゃだめでしょう」
「これは決定だ」
有無を言わさずそう宣言した。
その頃、ミリエルは、パーシヴァルから届けられた母の心遣いの中身を確認していた。
全容を見るのが怖いので、女官や侍女達はミリエルの寝室には絶対に立ち入るまいと誓っていた。
母の心遣いの全容は、リンツァー編の最終話と、サヴォワ編の冒頭に出てくるんじゃないかなと思っています。