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暁の星とともに  作者: karon
リンツァー編
33/210

理想と現実と困惑と

ストーリーは進んでいません。


 晩餐が終わると、ミリエルは馬車に乗せられ、離宮へと戻った。

 そして離宮に戻ると、簡素な部屋着に着替えさせるように侍女達に命じた。

 面倒なことに、この手の衣装は一人では脱ぎ着ができない。

 ミリエルも、侍女達にいちいち命じて着替えるのが面倒だと思っていたが、何しろ留め金に手が届かなかったり、きちきちのコルセットのせいで、腰をひねるのがとてつもなく難しかったりで、諦めていた。

 衣装を着替え、髪を下ろすとようやく一息つくことができた。

 腰を締め付けないすとんとした衣装を着て、それからお茶と簡単な軽食を頼んだ。

 コルセットをしたままでは胃が圧迫されて、ろくに食べることもできない。

 出されたのは、お茶と、干し果物入りのパンとチーズ。無言で黙々と食べていく。

 婚約式を終えて、これで結婚が決まったという実感はない。ミリエルにとっては押し付けられた仕事を終えたというだけのことだ。

 結構ずけずけとものを言ったらずいぶん驚いた顔をされた。

 ミリエルは不意に未来の夫であるレオナルドの顔を思い出す。

 日に焼けた肌、黒褐色の髪。それがまずミリエルの目を引いた。

 最初の挨拶から、手をとるまで、ずいぶんぎこちなく動いたが、そのとき背後にベアトリーチェの殺気にみちた視線を感じて、思わず表情がこわばった。

「もしかして、緊張してると勘違いされたかな」

 思わず呟く。もっともミリエルにこの結婚について思い入れはない。その相手にもだ。

 そういえばパーシヴァルが、言っていた。

「僕としては、背景はともかく。レオナルドと縁を結ぶのは悪いことじゃないよ」と。まあ友達を悪く言いたくないだけだろうが。

 ゆったりとした長椅子に腰掛けて、だだっ広いやたら豪華な部屋で、夜食をほお張っているこのひと時が妙に現実感がなく思える。

 お茶の甘い花の香りと、そのお茶にたらした上等の蜂蜜の香り。婚約だけじゃない。この場にある何もかもがミリエルにとって現実とは思えないものだ。

「悪い縁じゃないか」

 ミリエルはレオナルドの顔を思い出して少し笑った。

「ぜんぜん範囲じゃない結婚相手よね」

 堅実に、グランデで一緒に店をやってくれる人と結婚する予定だったのに。実際に現れた結婚相手は、戦乱の国の王子様。ハイリスクもいいところだ。その上、国が安定していないから、ハイリターンは今のところ保証されていない。

「本当だったらお断りしてるんだから」

 そう呟いて口を尖らせる。そして我に返ってテーブルに突っ伏す。

「何やってんのよ、私」

 現実味のない結婚話、しかし、相手の顔を見て、現実だと頭にしみこんできているのかもしれない。

「もう寝よ」

 夜食を食べ終えると、ミリエルは、備え付けの浴室に向かう。

 侍女達が、夜食を頼んだ段階で浴室の準備もしてくれていた。

 大鍋に、湯を沸かし小さな桶で入浴していた生活。それでも、入浴できるだけ贅沢だった。沸かすのが一度では足りず、何度も大鍋を持って浴室に向かったかつての自分が嘘のようだ。

 浴室には甘い香りが満ちていた。縁談のために、湯に香油が落とされているからだ。

 ミリエルは両手を見た。掌にごつごつとした胼胝がある。

「それでもあの日は嘘じゃない」

 あの雑貨屋で過ごした日々は現実、宮廷にいるのも現実。

 祖父と母は今何をしているだろう。

 衣装を脱ぎながらそんなことを思った。


ひたすらミリエルが混乱する話でした

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