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暁の星とともに  作者: karon
リンツァー編
31/210

お見合い開始

 タイトルに偽りありです。まだ顔をあわせていません。

 レオナルドは来る婚約式のため、本国から随従してきた部下達と入念に準備をまとめていた。

「パーシヴァル侯爵の妹姫ですか」

 部下達が怪訝そうな顔で、見合いの身上書を見る。

「パーシモン・ヴェルデ・リンツァー王弟殿下に姫君がいたということ自体初耳なのですが」

 レオナルドは、母方の姻戚関係で故リンツァー王室とは近しく行き来があった。王弟殿下の姫君が存在したならとっくに面識があって当然のはずだった。

「どうも、例の王太后がらみらしいという噂を聞きました」

 先代の王太后と現国王のいがみ合いは知らぬものがないほど有名な話だった。

 異母兄の国王と実母の王太后の板ばさみになって苦悩の日々を過ごしていたのがパーシモン王弟殿下だった。

 それと、いきなり現れた姫君がどう繋がるのかいささか疑問に思ったが。結局考えないことにした。

「ミリエル姫か。肖像画も付いていないとは珍しいな」

 王族同士の婚姻では釣り書きと同じくらい重要視されるのが肖像画だ。

 特に姫君の縁談では、国一番の画家に、最高傑作をと依頼することも珍しくない。

 また、画家にとてつもなく美化された肖像画を贈られ、本人が来ても別人ではないかと疑われるのも、よくある話だった。

「どの道明後日だ、それに姫君の容姿がどうあれ、断ることのできる話でもあるまい」

 レオナルドは、そう言って身上書を閉じた。


 ミリエルは、婚約式の手順をベアトリーチェに叩き込まれていた。

 王宮についてしばらくは顔を見なかったのだが、儀式の手順ならば私だと名乗り出たのだという。

 うんざりした内面を、綺麗に化粧した顔で押し隠し。ミリエルは祭壇に見立てた机の上で、婚約証明書にサインをする練習をしていた。

「ミリエル様、ご自分の名前を間違ってはなりません」

 ミリエルは真面目に自分の名前、ミリエル・モニークと記したのだが、ベアトリーチェはその場で顔をしかめた。

「正しくはこうでございます」

 そこに記されたのは、ミリエル・アレクト・リンツァーという名前だった。

 最初のミリエル以外まったく聞いたことがない。

「陛下がわざわざ考えてくださったのですよ」

 聞いてないという言葉をミリエルは飲み込んだ。

 偉い人というのはこういうものなのだ、もういちいち怒っていてもしょうがない。

 もはや諦めの境地で、サインをやり直した。

「サインが終わったら神官が掲げる台から、レオナルド殿下が指輪を取り上げ、そのお手にはめます。それで婚約成立となります。そして、陛下、パーシモン殿下のお二人が、証人としてサインを入れます。それで式は終了です」

 最初から最後までの手順を、ミリエルは一通り頭に入れる。

「それでは、最初からおさらいです、まず入場し、レオナルド殿下に、ご挨拶するところから」

 レオナルドの代わりにと連れてこられた騎士の顔も引きつっている。

 最初の手順を教わったのは朝食を食べた直後、そしてすべての手順の説明が終わり、すでに夕日が窓から差し込んできている。その上、最初からおさらい。

 ミリエルの目の前が真っ暗になるのを覚えた。


 その日は抜けるような青空で婚約式という人生を決める儀式を行うにあたっては幸先がいい。

 レオナルドはそう思った。かすかな笑みを浮かべると、リンツァー側の、婚約式立会人達に挨拶する。

 リンツァーの重臣達一同は、レオナルドの顔を見たとたん涙ぐんだ。

「どうなされた」

「何でもありません」

 ハンカチで目をぬぐいながら言われても何の説得力もない。

 かすかに聞こえた言葉は、可哀相。

「無理もないか」

 たった十五歳の少女が内戦に明け暮れる国に連れて行かれるのだ。

 しかし、彼は誤解していた。可哀相と思われていたのは他ならぬ自分であると。


レオナルドは正統は王子様の予定です。

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