真相究明 2
陛下、鬼畜です
膠着状態だったそれが唐突に動いた。
それぞれ別方向から三人がかりでミリエルに飛び掛ったのだ。
うち二人は鉄球の洗礼を受ける羽目になっても一人が少女を取り押さえればいい。
誰が犠牲になっても恨みっこなしだ。
それぞれがそうアイコンタクトしながら飛びついていく。
前と右から襲い掛かったものが腕や肩をへし折られる。そして背後から襲い掛かり、その身体を捕らえたと思ったとき、その手は空を切った。
少女は、一気に身体を低くして瞬時に伸ばした脛で相手の足を払った。
倒れた相手を踏み越えて、きっちり肋骨を踏み折って、なおも進む。
ためらいのない攻撃振りに兵士達の背筋に戦慄が走る。
なんとしてもこの少女を止めなければ、さもなければ主にもその容赦ない繊手を伸ばすだろう。
そして一度だけ少女の歩みが止まった。
パーシモンとパーシヴァルの二人が同時にミリエルにしがみついたのだ。
「だめ、気持ちはわかるけどだめ」
泣きそうな顔でパーシモンがミリエルの肩を抱きしめる。
「そうだよ、ミリエル。ここにいる兵士の皆さんに何の罪もないんだ、むやみに傷つけちゃだめだよ」
そう言ってパーシヴァルもミリエルの腰にしがみついて押し留めようとした。
今の今まで、弱腰だの、軟弱だの言われていた親子がこのとき初めて尊敬の眼差しを送られた。
しかし、山岳訓練で鍛え上げられたミリエルの足腰は尋常ではなかった。
細いとはいえ成人と成人に近い男二人を引きずったままその歩みは止まらない。
そしてついに謁見の間に到達してしまった。
「あのね、ミリエルここで引いて」
「あたしはただ、死なない程度に頭蓋骨にひびを入れたいだけなんだけど」
「頭蓋骨が壊れたら死ぬでしょ」
「死なない、それくらいの技術はある」
ミリエルは断固として考えを変えそうにない。
「しかしだ、私としても頭蓋骨を割られるわけには行かない」
静かな声がした。
謁見の間から出てきた十数人の騎士達。そのすべてがミリエルを狙って弓を引き絞っていた。
「武器を捨てなさい。この人数で矢を射られて、それでも生き延びることができると思うかね」
国王の声だった。
親子三人は棒を飲んだように立ち尽くす。
「ミリエル。君が男の子なら話は単純だった」
国王は静かに話し続ける。
「もし男の子であれば、二年前、サン・シモンの武術祭りに出ていた君をそのまま本国に持ち帰り、そのまま士官学校に放り込めばよかった」
ミリエルが、特殊部隊に入隊して初めて出場した、武道会のことを言っていると気付く。
「だが女の子だった、それならばどんな利用法があるか、こちらも頭を悩ませたんだ」
「利用法?」
ミリエルの唇が歪む。
「そう、すべての王族が国家の内部でどのように活用できるか、それを考えるのも私の仕事だよ」
「つまりなに、あたしが男の子だったら、その場であそこで拉致られていたってこと」
「その通り。軍縮が今の流行だが、それでも有能な指揮官になりうる人材はぜひとも確保したいからね、ところが、我がリンツァー軍は男子のみ。あの時は本当に悔しかった」
身勝手な言い分、とミリエルは吐き捨てる。
「だが、唯一君を利用できそうなのが、サヴォワ王太子との縁談だ、それを撤回するつもりはない」
モーニングスターを掴むミリエルの手が震えていた、
「王様相手にこんなこと言うのは犯罪だろうけど、それでも言うわ、リンツァーの税金ほとんど使ってないのに、リンツァーのために犠牲になれってどんなずうずうしい言い分よ。たとえこれが罪でもあたしはふざけんなって叫んでやる」
「まあそうだね」
パーシヴァルの言葉は妙に響いた。
「たとえ神が相手でもあたしはあたしだ。ふざけんな」
ミリエルは武器を捨てた状態で、兵士達にそのまま連行されていく。
「あの兄上、あのままだと私も矢襖になりそうでしたが」
パーシモンが恐る恐るという風に聞いた。
「娘のことはお前も連帯責任だ」
その言葉にパーシモンはその場でうなだれた。
次回久しぶりにダニーロとアマンダが出ます。