真相究明
初っ端からミリエルが使ったのはメリケンサックだと思ってください。
少女は楚々と王宮の廊下を歩いていた。最近王の養女になったミリエル姫の名を知らないものは今はいなかった。
銀髪にも見える淡い金髪。ぬけるような白い肌。丸い緑の瞳。可憐な美少女だと誰もが言う。
無論少女の出自に関して、侮蔑の目を向けるものも少なからずいるが。
平民の母親を持つ姫君と。しかし、実父が王弟である以上その血筋を面と向かってどうこういえる人間もいなかった。
「陛下は、謁見の間にいらして」
鈴を転がすような美声で少女が訪ねる。
しかし、侍従は少女を通すことを拒んだ。
「陛下は謁見の間にいらっしゃいます、しかし姫君、貴女とお会いする予定はない。陛下のご指示があるまで離宮にてお過ごしください」
少女はにっこりと笑った。
「痛い目見たくなけりゃ通しなさい」
言われたことが一瞬理解できなかった。
「貴方が私を通さないというなら、叩きのめして通らせてもらうわ」
そしてその前を通ろうとする少女の腕をつかんだとき、鳩尾に拳がめり込んでいた。
馬鹿な、少女に殴られたぐらいで。
血の気が引いた状態で、彼はひざを付く。
ミリエルの右手には、掌ぴったりにまかれた鋼鉄の輪が嵌っていた。
拳のちょうど正面にびっしりと鉄の出っ張りが植え込まれている。
こんなものをつけた拳で殴られればひとたまりもない。
母の心遣いで、侍従を退けたミリエルはそのままずんずんと進んでいく。
茫然と目の前の暴挙を見送っていた兵士がミリエルを抑えようとする。
次の瞬間肩の関節をはずされた。
祖父の教えだ。人体いたるところに関節あり、逆関節を決めればミリエルのような少女でも大の男を倒すことが可能だと。
相次いで二人の男を倒した少女に、たまたま居合わせた女官達が悲鳴を上げて逃げていく。
そのけたたましい悲鳴に、駐在兵士達も駆けつけてきた。
「血路を開く、か」
少女は不敵に笑う。
スカートをめくり上げて、下に仕込んでいたモーニングスターを取り出すと。行く手を遮る者達に静かに歩んでいった。
兵士達に戸惑いの色が浮かぶ。この少女はつい最近王の養女になったばかりだが、元々王族の血筋だ。
怪我をさせずに取り押さえねば。
しかし、相手はそんな躊躇を容赦なく踏み潰した。
手の届く場所に来る前に、鉄球が飛んでくる。鉄球の射程範囲からなかなか踏み込めない。
その頃、レオナルド王子と庭園で静かに語らっていたパーシヴァルのもとに、女官が泣きながら駆けつけてきた。
その様子にさっきまでの予感が当たったと確信する。
「すまないがちょっと行って来るよ」
パーシヴァルの言葉にレオナルドは俺も行こうかと尋ねたがパーシヴァルは、無言で首を横に振る。
「君は今、関わるべきじゃない」
そのままおそらく謁見の間だと見当をつけて、歩き出す。
途中で父親のパーシモンが駆けつけてきた。
「やっぱり、殴り込みをかけましたか」
問いかけの形の確認に、パーシモンは眉根を抑える。
「一度暴れさせて、ガス抜きをしなくちゃなりませんよ、あの子は」
「そんな問題か」
「だって仕方ないでしょう。あの子はそういう子ですし、一度暴れればしばらくはおとなしいですよ」
飄々と応える息子に。パーシモンは崩れ落ちそうになる。
「陛下もそういう子だっていうのはわかってると思うな」
パーシヴァルの言葉を猜疑に満ちた目でパーシモンは見つめた。
パーシヴァルは隠れ腹黒です。