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暁の星とともに  作者: karon
リンツァー編
26/210

閑話 パーシヴァルの追憶

 番外編になりました。ついでに王子様登場。

 パーシヴァルは王宮の庭園を散策していた。

 離宮の方向を見る。そこで妹は今頃勉学に励んでいるだろうか。

 ミリエルのことは、つい最近まで話にしか聞いたことがなかった。

 母とミリエルが出て行ったとき、パーシヴァル本人もまだ幼児だった。

 つい最近までは、首都にある。帰属して専門の学院に寮生として入っていた。パーシヴァルは身分では高いほうだが、いかんせん影が薄い性格をしていた。L

 端正な容姿もそれを返って助長していた。最初に、ミリエルの顔を見たのはもう二年も前、今まで口が重かった父が、ようやくアマンダの居所を教えてくれたのだ。

 初めて外国に出たパーシヴァルにとって、サン・シモンのグランデはずいぶん異様に思えた。

 それでも道行く人たちは親切で、第三地区までは割合スムーズに行くことができた。

 それらしい雑貨屋を探しているとき、見覚えのある髪色が目に飛び込んできた。

 少女が、なにやら鞄を持ってあたふたと駆け出していく。

 翻る長い髪。そして、物凄い俊足だったので、追いかけることは不可能だった。

 あっという間に遠ざかっていく。その小さな身体を呆然と見送っていた。

 そして背後を振り返ると雑貨屋らしい店があり、その前で、濃い金色の髪で緑の目をした女性が立っていた。

 女性はパーシヴァルを驚いたような目で見ている。

「母上」

 そう呼んだ瞬間嫌そうな顔をした。

「止めとくれそんな仰々しい呼び方は、まあいい、来たんならお茶ぐらい淹れてあげるよ」

 そう言って雑貨屋の中に入り、パーシヴァルを手招いた。

 嫌な顔をされたので、歓迎されていないのかと勘違いしたが、お茶と手作りのお菓子でもてなしてくれた。

「さっきのが、ミリエルですか?」

「ああ、女の子だけの集まりがあるんだ。遅刻しそうだって慌てて走っていったんだね」

 その集まりが舞踊の練習だと聞いてほほえましさに頬が緩む

「よくあいつがあんたを国外に出したね」

 アマンダはいかにも下町の女という風にざっくばらんに核心を突く

「ずっと申し込んでいたんですが、やっとお許しが出ました」

「時々パーシモンから手紙が来るよ、そちらも大変そうだね」

 ダニーロが果物の鉢を持ってやってくる。

 席を立ったついでに何か用事をする。そんな習慣はパーシヴァルの周りにはなかった。

「ミリエルにはお前のことは話してないよ」

 ダニーロはそう言って目を伏せた。

「今は知らないほうがあの子も安全だ」

 パーシヴァルはダニーロの言葉に頷いた。ダニーロとも手紙のやり取りをしている。ダニーロが愚かな人間ではないことはパーシヴァルも理解していた。

「あの手紙のことですが」

 パーシヴァルはダニーロにだけ聞こえるように言う。そろそろこの家の周囲に探りが入っている。もうすぐ祖母が死ぬのだ。

 リンツァー国王と、王弟パーシモンは異母兄弟だ。パーシモンの母は後妻だ。元々サン・シモン王室の縁者の娘だった。

 かなり自己顕示欲が強く。息子も自分の野心を満足させる道具。そんな母親にスポイルされたのがパーシモンだ。

 そのパーシモンの唯一の反抗が、平民のアマンダとの結婚だった。

 そのため王位継承権を失ったが、それこそパーシモンの望みだった。あの母親から逃れるために。

 王位継承権を失えば、自分はあの母親から見捨ててもらえると。しかし彼女の復讐心はアマンダへの攻撃という形で現れた。

 長男のパーシヴァルはともかく幼いミリエルを守るためには逃げるしかなかった。

 その祖母が死ぬ。そして国王はミリエルに興味をしめし始めたらしい。

「僕に食い止められればいいのですが」

 どのような企みが進行しているのか、それを探り出すためにパーシヴァルは動くことにした。

 冷たい風に頬をなぶられてパーシヴァルは過去の追憶から舞い戻った。

「何を考えていたんだ」

 目の前にいたのは、彼の友人。今内乱真っ盛りのサヴォワから亡命してきた第一王子。

「レオナルドか、ちょっと昔のことを思い出していただけだよ」

 この友人は悪い男ではない。だから妹の婿にと言われたときは悪い縁ではないと思った。

 サヴォワが内乱中でなければ。

 サヴォワの前王妃が、リンツァーの何でも父の従妹に当たる女性だったそうだ。

 だから彼はまた従兄弟に当たる。

 自分と違って精悍ないかにもりりしい顔を見て。パーシヴァルは溜息をついた。

「ええと、聞いているか?」

「ああ、次代の王妃に君の妹姫を娶れという話だろう。大丈夫だ、ほかならぬ君の妹だ」

 すでに婚約が終わった気でいる。元々援助と引き換えに、政略結婚は織り込み済みの話だったので当然といえば当然なのだ。

「まあ、君は本当に妹のいい婿になりそうなんだが」

 その前にひと悶着きっとある。パーシヴァルは確信していた。


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