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暁の星とともに  作者: karon
リンツァー編
21/210

旅路 3

 


 下着を身につけてしまうとミリエルはアマンダを呼んだ。

 しかし、入って来たのはアマンダではなく。さっきアマンダが締め出した女達だった。

 薄い茶色のコルセットを身につけさせられ、ミリエルは肋骨の軋む音を聞いた。

 三人がかりで、薄紅色の絹でできた襟と肘から下が羽毛のような純白のレースになっているシンプルなドレスに着替えさせられる。

 ドレスを着終えると、鏡の前に坐らされて、きちきちに淡い金髪を結い上げられ、頭頂部にまとめた髪に、金と銀に、赤い宝石の付いた髪飾りを挿される。

 耳飾りや首飾りも付けさせられ、薄化粧も施された。

 鏡に映ったミリエルは、おそらく、近所の人が見てもミリエルだと気付かないのではないかと思うくらい変貌していた。

 ぱちぱちと目を瞬かせる。

 さっき目の周りに塗られた顔料のせいで少し痒かったが、指先をそこに持っていこうとすれば身の危険を真剣に感じたので、断念した。

 鏡の前で茫然としているミリエルを女達は強引に立たせた。

 再び誰かが入って来た。

「お初にお目にかかります。ミリエル様」

 枯れ木のようにやせこけた女だった。年はアマンダよりおそらく十以上上だ。

 釣りあがった目に、つりあがった形の眼鏡を掛け、まっすぐな黒髪をかっちりと結い上げていた。

「私、ミリエル様の教育係を勤めさせていただきますベアトリーチェと申します。これより一週間の旅路、首都ライヒに到着いたしますまで、ミリエル様に淑女教育を受けていただきます。十五と申せば、もうデビュタントも間近、少々詰め込みになりますが、御寛恕なさいますよう」

 言われたことの半分もミリエルの頭に入っていなかった。

「何で私淑女教育を受けなきゃならないんでしょう」

 とりあえず、何とか拾えた単語だけいってみる。

「ああ、あらぬ望みを抱かぬようにと、何も教えられていないのですね」

 ベアトリーチェはそう言ってにたりと笑う。

「ミリエル様、貴方様のお父上は高貴な身分ながら、異国の下々の女を愛でられました。愛妾とするならばさして影響もなかったのですが、お父上のお望みは貴賎結婚でした。そのため王位継承権を失われました。その婚姻は三年続きましたが、所詮下々の女。己が身の程知らずを悟り、ミリエル様をお連れして、母国へと戻られました」

 言葉の端々でアマンダをコケにしながら、ミリエルが産まれる前後の話をしてくれた。

 アマンダは平民ゆえ、王宮や、儀式に参加できずその冷遇に耐えかねてミリエルをつれて実家に帰ったようなことを行っていたがそれはミリエルにとって疑問だ。

 むしろ、それに参加しろと強制されたほうが逃亡の理由になる。

 あちこちに引っかかる言葉を聞いた気がしたが、どうやら、ミリエルの父親あたりが噛んでいそうだと当たりをつける。

「それで私はどうすれば」

「立派な淑女になっていただきます。それが貴女のような方をお拾いになった、かの方のお望みです」

 かの方が父なのだろうか、しかし、父だとすれば拾うという言い方はおかしいのでは。普通は引き取るだろう。

「それでは、お召し替えもすんだようですし、晩餐のお時間でございます。テーブルマナーを覚えてくださいませ」

 この格好で飯を食えだと。ミリエルは胸のうちで呻いた。肘から垂れ下がるたっぷりと襞を取った純白のレースを忌々しげに見下ろす。

「誰か嘘だと言ってくれ」

 その呟きに応える者は誰もいなかった。


 翌日、明らかに昨日の護送車の床面積と同じくらいの巨大な寝台の上で目覚めると。ミリエルは、再び着替えさせられ、馬車に詰め込まれた、

 今度の馬車は、内部が布張りで、たっぷりと綿を詰めた椅子が付いており、床は爪先が隠れるほど毛足の長い絨毯が敷き詰められていた。

 今日は大きな髪飾りを付けさせられているので、首が少々痛む。

「それではミリエル様、本日は馬車の中でできる授業でございます」

 横に坐ったベアトリーチェが重々しく宣言した。

「本日の授業は、扇を扱う作法でございます。扇の扱いは、まず基本が十六、更に、応用編が三十ほどございます。間違った扱いをなされますと、仮にも姫と呼ばれる方がと笑いものになりますので、まずは基本の持ち方から」

 畳み掛けるようなベアトリーチェの言葉の奔流に、ミリエルは目の前が真っ暗になっていくのを覚えた。

「誰か、私を護送車に返して」

 魂の叫びに応えるものはいない。


 ミリエルは、これからみっちり淑女教育でしごかれて、首都ライヒに付くでしょう。

  扇の作法は十八世紀に本当にありました。

 扇を広げて顔を隠せばあんた嫌いとか扇をたたんで唇に寄せれば、お誘いとか。売約済みと非売約済みで扇の持ちかたが違うとか。

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