サフランと騎士団。
お待たせしました。そろそろ完結させようと思います。
塔から流される曲が変わった。それは奇襲成功の合図。
周辺の建物の中で様子をうかがっていた各国の騎士団が塔の中に吸い込まれていく。
その様子をこわごわと見守るやじ馬たち。
塔の中敵は袋の鼠だ。
地下に通じる道はすでにふさがれている。
サン・シモン騎士団はあらためてサフラン商工会から地下通路図を受け取ることになった。
もともと王宮からの緊急脱出路として用意されていたそれを長野歳月の果てに忘却していた。それは王宮側の落ち度であったためサフラン商工会に表向き感謝の言葉だけが与えられた。
といっても当事者の責任でもない。責任のある人間はおそらく百年は前に死んでいる。当時の資料を調べた人間はおそらく百年ほど前の大疫病の騒ぎの際に知識が断絶したのではないかと推測を述べているが。それが当たっていたとしても今は何の意味もない。
凶悪な凶器を手にしたほっそりとした少女。
その凶器はその折れそうに細い少女には不向きな重量武器。ならば扱いかねるはずと思った男達はその目論見をあっさりと外された。
そのそばに寄っていっただけで骨の折れる鈍い音が聞こえてきた。
「聞こえない、聞こえない」
耳を押さえて身体を丸めているパーシヴァルを冷たい目で見降ろしていたレオナルドは真っ先に駆け込んできたのがサン・シモン騎士団の制服を着ているのに目を細めた。
「殿下方、ご無事で」
サン・シモンの王族らしい青年が助け起こされている。
「ミリエル、マーズ将軍はどうした?」
ミリエルは近寄ろうとした連中のことごとくの骨を折りながら答える。
「下で待ってる、一応サン・シモン騎士団に花を持たせてあげなきゃならないし?」
すでにミリエルの周囲には立ち上がることのできない男達がじたばたともがいている。
「じゃあ、帰ろうか」
レオナルドは手かせを落とす。
ひもでくくっただけの代物なのであっさりと外れる。
「ああ、すいませんねえ、そちらの勘違いに付き合ったのは、このためでしてね」
ダニーロはレオナルドが拘束されていないことを示したことに驚愕する男に笑いかけた。
「一網打尽にしてそちらを進呈するくらいじゃないと、そちらの勘違いに巻き込まれる恐れがありましてね」
声にならない声をあげてつかみかかってくる相手の腕をとるとあっさりとダニーロは肩をはずした。
「ご心配なく、後ではめてもらえるでしょう、あちらの牢獄でね」
悶絶する相手にダニーロは笑いかけた。
ミリエルはモーニングスターをショールのように肩にかけて歩いていく。
塔の螺旋階段では、何人もの人間が拘束されていた。
「どうもー」
顔見知りらしい男たちに軽く挨拶をして、ミリエルは進んでいく。
ミリエルの後ろからレオナルドとパーシヴァルもついていく。
地上に降りると、マーズ将軍が待っていた。
やじ馬が誰かを袋叩きにしていた。
「あれも商工会の人、やじ馬に紛れてどさくさ紛れに逃げようとする連中を仕留めているところよ」
何台もの馬車が迎えに来ていた。その一つに三人は乗り込みサン・シモン王宮に戻った。