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暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン 未来編
208/210

呻くものうなるもの

 随分大きな塔なのだろう。かなりの人数がいるはずなのに、全員が収まっている。

 そして人込みといってもいい密集ぶりなのだが、酒を持った女たちはすいすいと泳ぐように移動している。

 そのうえ楽器を演奏している女たちもいる。

 さすがに大型の楽器を持ち込んではいない、横笛や、小竪琴、リュートなどの一番大きなものでも抱えられる大きさのものだ。

 レオナルドは座ったまま顔を動かさず視線だけで周囲をうかがった。

 さて、何が起こるのか。

 ダニーロは中央にいる男に笑いかけた。男はどこかゆがんだ笑みをダニーロに返す。

 その男の動向が気になったが、レオナルドはわざと顔を伏せた。

「あの男に見覚えはあるか」

 ほとんど吐息のような小さな声でパーシヴァルに尋ねる。パーシヴァルは小さく首を振る。レオナルドはあきらめて周囲をうかがう。全員疲れた顔をしてうずくまるように座り込んだ。

 息を殺して酒宴を眺めているしかできない。しかし演奏する女達が、不意に曲風を変えた。

 テンポの速く曲調の激しいものに変わった。レオナルドは女達の顔を覗き見た。

 女達はみな笑っていた。

 先ほどまでの張り付いたような笑みではなく心からおかしそうな、演奏しながら噴き出すのをこらえるような笑みを浮かべている。

 その曲に合わせて、窓から飛び込んできた者達がいた。


 ミリエルは塔を上っていた。

 同派レンガが歳月によって削れ、手掛かりがそこそこある。それにミリエルは軍事訓練でがけ登りの経験も豊富だった。

 そして体重が軽い。そんなわけで、ミリエルは極めて軽やかに塔の壁に張り付いて登っていた。

 むろん目立たないようにミリエルはできるだけ塔の壁に似せた灰色のドレスに、ケープをまとっている。

 同様にミリエルの下に灰色のマントをまとった騎士たちがよじ登っていたが、ミリエルほど軽やかに上ることはできないようだった。

 どうやらいの一番にミリエルが塔の最上階にたどり着きそうだった。

 音楽が流れてきた。その曲はミリエルのための音楽。かつてブドウ大会でミリエルのために流された曲だった。

 ミリエルはにやりと笑った。

 それはどこか好戦的な笑みだ。これは戦闘開始の合図。ミリエルは最上階の窓に取りつくと迷わず中に飛び込んだ。

 スカートが翻り、その下に隠された暗器を取り出す。扱い慣れたモーニングスター。その鉄球を目標に向けてひょいと投げた。

 頭すれすれのところに鉄球が通過する。

 腕の力だけで鉄球を呼び戻し、ミリエルの周囲に軽く回す。

 パーシヴァルは呻いた。

「こんな狭いところで、そんなもん振り回すなよ」

 世にも情けない、しかし真に迫った呻き声だった。

 レオナルドは手かせになっていたものを取り外す。もうつけているふりをすることもないだろうと判断したからだ。

「いざという時にはこれで身を守るしかないだろう」

 思ったより丈夫な木が使われていた。


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