塔の上
レオナルドは数日過ごした地下牢から出された。
場所はともかく待遇に関してはかなりましな扱いを受けていた。
この街は地下を通ればどこへでも行けるらしい。道さえ知っていれば。
しかし道を知らなければ、この暗闇の中で迷っていつまでも出られない。そのままのたれ死ぬだけだ。
いつの間にかどこかへ上っていることに気付く。
不意に、視界が明るくなり、自分がいるのはらせん状になった登り道を歩いていることを理解した。
「おや、窓がある」
そうつぶやいたのは横を進むパーシヴァルだ。
いつの間にか随分高い場所まで登っていたらしい。
グランデの街並みが見える。
山岳を切り開いた街はややせせこましい印象を与えるが、だからこそ、商業を発展させねばならなかった理由も透けて見える。
耕作地がほとんどとれないのだ。
勢い交易に力を注がざるを得ない。
そういえば、ミリエルが神殿で歌っていた歌。あれを翻訳してくれると言っていたが、結局してもらわずじまいだった。
戻ったらいや、帰りの馬車の中ででも暇つぶしにやってもらおう。
そう思ったレオナルドは再び階段を上り始めた。
とりあえず、生き延びられることだけは確定しているのでその足取りは軽い。
ミリエルの祖父が、ミリエルのために自分とパーシヴァるだけは生かしてくれるだろうと確信しているので。
パーシヴァルは少々足元がおぼつかない。日ごろの運動不足がたたっているのだろう。どうして兄妹でこうも両極端なのかと思わず考え込んでしまう。
おそらく塔に登っている。
この街を通ったときいくつか高い戦闘のある建物を見ていた。
そのうちの一つだろう。あいにく、下の風景を見てどの党だかわかるほど、この街の地理に詳しくはない。
おそらく、ミリエルならわかるのだろうなと思いながら足を進めた。
ダニーロは塔の最上階にしつらえられた場所にいた。
その場所は宴会場になっている。
町娘たちが数人、それぞれ楽器を手にして座っている。そして数人の町娘たちはお盆と食器を用意している。
そして一番奥の場所に座っているのはダニーロにとっての諸悪の根源。
勘違いからダニーロを同市と読んで要らない騒ぎを起こしてくれたろくでなしだ。
これから何が起きるかわからずその場でニタニタと笑っている。
ダニーロは娘たちに合図をして演奏を始めさせた。
酒器を持った娘たちは演奏と同時に盃になみなみと酒を注ぎ始める。
遠方から運んできた、酒精が恐ろしく濃い酒だ。街の酒豪たちだって薄めずに飲むことはまずない、しかし生のまま注ぐよう娘たちには支持してある。
さて厄介払いだ。
ダニーロはにんまりと笑って客人たちを迎え入れた。