近づいてそして
大変お待たせしました。
どうやら、脅迫状らしきものは来ているらしい。
それによれば、状況はかなり支離滅裂だ。どうも各国のあちらこちらで疑心暗鬼になるような内容だったらしい。
つまり一つの国に一つずつ脅迫状が来たようだ。
そして、いまあっちこっちで険悪な雰囲気になってきた。
疑心暗鬼から直接攻撃に移るタイミングを見計らっているような。
「やれやれ」
ミリエルはマルガリータにお茶を淹れてもらう。
とりあえずお茶で喉を潤して、それから長い長い説明をマーズ将軍あたりにしなければならない。
「内密の話があるからこっそり来てねと伝えて」
そうコンスタンシアに告げると、ミリエルは先ほど祖父から聞いた内容を反芻する。
しいて言えば荒唐無稽に近い内容だった。
おそらくかつては祖父すらまともには信じていなかったのだろう。
それにしても相手の出方がわからない。
いったい何をしたいのだろう。
マーズ将軍はミリエルの様子を見て眉をしかめた。
明らかに何事か煩悶しているようだ。
「とりあえずどれくらいのことが出ているのか教えて」
ミリエルはそう言ってマーズ将軍に尋ねた。
「もうしっちゃかめっちゃか、サン・シモンに恨みがあるって脅迫状が来たかと思えばリンツァーには多分五通全く別の国から脅迫状が来たらしい」
「で、その脅迫状の送り主は何て言ってるの」
「ここには来てない国もあるが、おおむね否定している」
ミリエルは軽く目を閉じた。
「それで我がサヴォワには何通来ている?」
「国からには一通、なんとサン・シモン、それと旧勢力らしさを出した手紙が一通来ていたかな」
旧勢力。かつて王族を追い出してサヴォワを占領し、国土を交配させた連中の残党のことだろうか。
「それでどれだけらしいの」
「今んとこ半々というところか」
面倒くさそうに自分のひげをいじっている。
「実は先ほど陛下にお会いした」
ミリエルはそう呟く。
「陛下ってどちらの?」
「うちのに決まっているだろう」
たちまちマーズ将軍の顔がこわばる。
「どうやって、救出したか?」
「それはしてない、だが陛下に危害が加えられる可能性は全くない」
「どうして断言できる?」
「今陛下を監禁しているのが私の祖父だからだ」
思わずミリエルの首につかみかかろうとするマーズ将軍をマルガリータが寸でのところで止める。
「祖父は脅迫されているといっていた。だが、陛下に危害を加えるつもりはない、そしてなんとか陛下を我々のところに戻してくれると約束した。そして、脅迫している首謀者をとらえる手はずを整えるため協力してほしいといった」
「何をするつもりだ」
「ちょっと危ない橋を渡らなきゃならない」
ミリエルは疲れた表情でつぶやいた。