サン・シモンの闇
遅れて申し訳ありません。
パーシヴァルはミリエルをまじまじと見た。
「サン・シモンの地下通路って」
口をパクパクさせるパーシヴァルにミリエルは小さく囁いた。
「もともとサン・シモンが傭兵の国だって知ってたわよね。その名残で神殿施設や政治的な施設には地下通路でつながってるの、もちろん王宮もよ」
もともとはあちらこちらにある洞穴を利用したものだったらしい。山岳地帯にあるサン・シモンにはそうした洞穴は珍しくない。
そうした洞穴を掘り進んだり広げたり、もちろん補強工事込みでアリの巣のように地下にもう一つの街があるのだ。
一番大規模なのは首都グランデだが。
「これはまあ戦争になった時の奇襲用なんだけど、あと住民を逃がしたりいろいろよ、詳しい話はお兄ちゃんを信じて教えたんだからね、レオナルドにも言ってないというか言えないの」
ああ、なるほど、ダニーロの孫と言うことで教えてくれたのかと、パーシヴァルは遠い眼をして思う。
それにしてもここまでぶっ飛んでいたんだな、アルカンジェル傭兵団。
ミリエルはそう言って、とりあえず次に私が来るまでにお爺ちゃんに話を聞き出し手と言ってきた。
「交渉する材料にこのことを教えたんだからね、お兄ちゃんなら悪用しないと思うけど」
妹の信頼がありがたくて涙が出そうになった。
そしていざという時には取引用に脅迫材料を用意してくれるその親切心。王妃になっていろいろあったんだね。それは決して口に出してはいけない言葉だった。
妹の成長とその成長を促した環境に思いをはせる。
そして兄と妹は互いに笑いあった。
ミリエルが地下通路からはい出して身体の埃を落としているとマルガリータが背後に立ってミリエルの手の届かない場所の埃を落としてくれる。
ミリエルも交代で埃を払う。
自体が事態なのであっさり眼のドレスを着ていてよかった。正装のドレスなら途中で引っかかるところだったとミリエルがため息をつく。
「ああ、祈りの時間が終わったようだね」
みりえるは部屋に備え付けてある鏡を見て、顔に何もついていないのを確認する。髪が少し乱れていたが、体調を崩してふせっていたという言い訳を考えれば許容範囲内だろう
控室に戻るとミリエルはベッドに横たわる。そしてずっとそうしていたようにふるまいながらこれからを考えることになった。
「なんかね、うちのお爺ちゃん恐喝されているんだって、で、その内容を明らかにせず、何とか首謀犯だけ捕まえてほしいって言われたんだけど」
「それ、思いっきり難しくないか?」
マルガリータが呆れる。
「なんか誤解があるみたいなんだよねえ、勝手に同類呼ばわりされて迷惑しているってお爺ちゃん言ってた」
基本的に祖父は裏から人を操るのが好きだが、矢面に立つ立場にはなりたくない人だ。美味しいとこだけとってまずいところは人任せという心温まる人格の持ち主だ。それをどう勘違いしたら、サン・シモンの覇権を狙っているという考えになるのかわからない。
やる気になればとっくにやっている気がする。
たとえば母が結婚したときとか。
「王宮に帰ろう。様子見だ」
ミリエルはそう言うと、ベッドから起き上がった。
マルガリータがその手を支える。
ミリエルの強じんな足腰は人の手の支えなど必要としないがここはいわゆるお約束と言うものだ。
みりえるはか弱い高貴な貴婦人なのだから。