闇の道行
古びた石段を下っていく。
「ミリエル?いる?」
マルガリータは手探りで周囲をうかがっている。
明かり一つ持っていないのであたりは鼻をつままれてもわからない真っ暗闇だ。
「手すりにつかまっていて、曲がるときがきたら知らせるから」
ミリエルは慣れた風にそう言うとゆっくりと歩いている。
実際はすたすたと歩けるようだが。マルガリータに合わせてゆっくり歩いているらしい。
「いったいここは何だ」
「地下通路、前に行った王室の脱出路もこことつながっているの」
古びた石段は角がすり減っていて非常に危なっかしい。マルガリータはそろそろと進むのがやっとだ。
「街中の神殿はすべてこの地下通路の入り口があるの、国家機密だから他言無用に願うわ」
ミリエルはそう言ってしばらく歩いていた。
「階段が終わったから足元気をつけてね」
「どうしてわかるんだ?」
みりえるはマルガリータより夜目がきくがそれでもこの暗闇で周囲が見えているとは思えない。
「手すりに刻み眼が入れてあるの、その形を覚えておけばいいのよ」
指で撫でただけでミリエルはその形を識別できるのだそうだ。
「慣れてるね」
「一人で山の中で一週間過ごすことに比べれば、慣れた地下道にしばらくいるくらいどうってことないよ」
ミリエルのハードな体験にマルガリータはドン引きする。
闇の中一筋の光が現れた。
闇にそれほど長くいたはずはないのだが、まぶしさに眼を細めた。
光は小柄な老人の影を映しだす。
カンテラを持った老人がそこにたたずんでいた。
「お爺ちゃん、何してたの?」
ミリエルはそう言ってドレスのすそをつまんで祖父に駆け寄った。
いつの間にか身についてしまった癖に苦笑する。
くるぶしがのぞく丈のスカートならつままずに走れたのだ。
「とりあえず、お前の旦那さんとパーシヴァルは元気だ」
「背後にお爺ちゃんがいるって聞いたときからそれは心配していない」
それから背後にいるマルガリータを部下だと紹介し、そのまま三人連れ立って歩き始めた。
ダニーロは苦笑した。
そしてカンテラの明かりでも着飾った孫娘をどこか遠いまなざしで見ていた。
「とりあえず、手枷をつけていることになっている」
「なっている?」
「芝居をしてもらっているんだよ、手枷は芝居用のすぐ外せるやつだ」
「誰に対して芝居をしてもらっているわけ」
「誘拐犯」
ダニーロの言葉に眼を瞬かせた。
「パーシヴァルもそんな反応だったなあ」
やれやれとダニーロはため息をつく。
「まあ事情を話すとだな」
ダニーロは歩きながら話し始めた。それを聞いているうちにミリエルの眉はどんどん寄っていく。
「それで、どうするつもりなの、お爺ちゃん」
ミリエルは座った眼でそう詰問した。