意外な顔
お久しぶりです。
馬車ごと地下トンネルの中に入っていた。
山岳地帯なので、山をくりぬいたトンネルは多いが、明らかに隠すように作られている。
しばらく馬車で移動していたが下された。
パーシヴァルは祖父から聞いたサン・シモン情報を思い出していた。
もともと傭兵が作った街なのでいたるところに隠し通路が作られているという。どうやらその一つを通っているらしい。
しかし、どうやってこの場所を知ったのだろう。
その疑問はすぐに解消された。
なぜか、祖父が馬車の前で出迎えてくれたからだ。
「何やってんの、じいちゃん」
思わず真顔になってしまったのは仕方がないだろう。
「まあ、好きでやってるわけじゃない」
祖父も渋い顔だ。というか、何をやっているのか理解が追いつかない。
小声のやり取りだったが、会話の内容が耳に入ってしまったらしく長年の友人が顔をひきつらせている。
「じいちゃん?」
「ああ、パーシヴァル、この方は」
「サヴォワの、ミリエルの旦那」
ダニーロは一転破顔し、レオナルドに握手を求めた。
「いや、じいちゃん、それどころじゃないから」
思わずなごみかけた空気をパーシヴァルは押し戻す。
「おっと、いかん、聞かれてはまずい」
再び渋面に戻ったダニーロは背後を軽く振りかえる。
「どうやらうまくいったようですな」
なんだか、金ぴかの派手な格好をした男がそこに立っていた。
明らかにサフラン商工会と関係のない人間だとパーシヴァルにもわかった。それに祖父の眼は顧客に対するものではなかった。
「ちょっとした誤解があったようでな」
祖父が小さく呟いた。それはパーシヴァルにしか聞こえなかった。
馬車が消えたという地点をミリエルは地図に顔をくっつけて確認した。
「あの、もしかしたらだけど」
王城は丘を丸ごと宮殿にしてある。その地盤の下にいくらかの空洞があり、緊急脱出口が作られているという話を聞いたことがある。
無論、大昔、軍のお偉いさんだったご先祖からの口伝として聞いたことだ。
そう前置きしてミリエルは続けた。
「中には馬車が通れるほど広い道もあったと聞いたことがあるわ」
ミリエルの言葉になぜかびっくりしているのはサン・シモンのお偉方だった。
まさか、とミリエルの額に冷たい汗が浮かぶ。
王宮の隠し通路の秘伝はどうやら王宮関係者には失伝してしまっているようだった。
おい、本当かと、ミリエルは呆れた。
「隠し通路、ですか」
マーズ将軍が、ミリエルがいらないことを言う前に遮った。
「馬車が通れるとなると、そのあたりの下草や木の枝などがへしおれていたりするでしょうな、おそらく百年単位で使われなかった道だ」
「百年じゃきかないかも」
ミリエルはそう言って、そのあたりを探索するように指示を出した。
「どうして王宮の人って、地下を忘れたりするのかしら」
「あんまり行くこともないからだろう」
マーズ将軍はそう言ってため息をついた。