戦い終わってその果てに
モーニングスターから滴る血を一振りで払うと。ミリエルは戦況を見た。
すでに騎士たちによって制圧が完了しており、女官たちも捕縛に協力している。
「ご無事で」
抜き放った件を片手にマルガリータがミリエルのもとに馳せ参じる。
「一応無事だけど、まだ残敵は残ってる、気を抜くな」
ミリエルは完全に地に戻っている。
「無論ですが、あれどうしたんです?」
誰にも倒された形跡がないのに、泡を吹いて倒れている男がいる。
「シファ伯爵夫人のご助力のおかげだ」
ミリエルは端的に答えた。
「は?」
マルガリータは軽く混乱する。あの人にこんな真似が出来るなら、母国の王太子はとっくに始末されていたはずだが。
「思わぬ使い方を覚えた、これから何らかの役に立つだろう」
その言葉に不穏なものを覚えたが、まだ戦闘は続行中だ。
マルガリータはそそくさとミリエルのそばから離れる。
ミリエルの武器は遠距離攻撃用なので、そばにいると危ない、そしてミリエルの行動も阻害してしまう。
騎士たちに交じって女達が武器をふるう。
「昔は女性だけの軍隊もあったお国柄だ」
ミリエルが、モーニングスターを振り回しながらそう教えてくれた。
とにかく、すべての制圧を終えて、ようやく離宮を出て、本給に戻ってみれば後の祭りだった。
片手に重量級の凶器を手にしたサヴォワ王妃を先頭に騎士と武器を手にした女官たちに挟まれて、貴婦人方が歩いてくる。
その異様な光景にしばし呆けていたサン・シモンの廷臣たちが、重い口を開いた。
「陛下たちが拉致されました」
「は?」
ミリエルの目が点になる。
周囲の騎士たちがちっと舌打ちした。
「遅かったか」
きょろきょろと周囲を見回していたミリエルが自国の将軍を見つけて説明を求めた。
「何があった、マーズ将軍」
王妃の威厳というより、むしろ歴戦の勇士の迫力に包まれた王妃の姿に、平野騎士たちも震え上がった。
「妃殿下方を人質に陛下たちの身柄を奪われたのです」
まさか、いやサヴォワ勢は薄々感じていたが、自力で后や貴婦人方が脱出してくるとはだれも思わなかったようだ。
サヴォワ国王とリンツァー王太子、ミリエルの兄パーシヴァルその他といった面々が連れ去られているらしい。
「それだけの人数をさらったなら、馬車も大型かそれとも複数、追うのは難しくないはず」
「それが」
貴婦人方を人質に取られ追うこともできなかったと。
ミリエルのこめかみに青筋が立った。
「だったらさっさと追え」
誰も反論できなかった。