動いている
お待たせしました。
ミリエルは、適当に迷子になったふりをして、水差しの位置を確認する。
一口でお陀仏だ。そうくどいほど念を押されたことは今なダニ記憶鮮明だ。
水差しの大きさと、手の中の乾燥した植物の量を確認する。
乾燥したことにより、毒性はどのくらい変化したのかそれともまったくしていないのか。
そんなことを考えながら、一つまみづつ入れていく。
そして、素知らぬふりで、ミリエルはシファ伯爵夫人とお手洗いに向かった。
王宮のお手洗いは広い。なぜなら、ドレスがかさばるから。
御マルを持ち込んで化粧室で用を足す女性も少なくない。
この膨らんだスカートで、庶民の女性の使うお手洗いに入れば、たちまちドレスを詰め込んだだけですし詰めになってしまう。
正装して集まる場合は常に泊まりがけだ。なぜなら正装ドレスで馬車に乗れないから。
お茶会なので、軽いドレスだが、さすがにこの恰好を崩すわけにはいかない。
シュミーズドレスは庶民の普段の服装とどっこいの露出だが、貴婦人としては全裸で歩いているに等しい。
そんな恰好を王妃であるミリエルがさらすわけにはいかない。
「ずさんね、水筒を持参すべきだわ」
そんなことを呟きながらミリエルはそそくさと後にする。
効いてくるのはしばらくたってからだろう。
干したものを水中に投下したのだ。お茶のように成分がしみだしてくるはずだ。あれはどんなふうに飲んだとしても効果的な毒物だ。さらに傷口に染み込ませても効く。
一つまみだけ残しておいた。
これはいざというとき使おう。
シファ伯爵夫人は気軽な様子で水差しに乾燥した植物を入れていくミリエルを南都の言えない目で見ていた。
あれが猛毒であることはよく知っていたが、毒殺用に持ち歩いていたわけではない。
どんなものでも、この少女の目には凶器に移るらしい。
どんな育ち方をしたらこんな風になるのだろう。
ミリエルは監禁場所に戻ると、時を待った。
その時、王宮の男性達は、今だ右往左往していた。
その挙句、何もしない輩が、さっさと引き渡してしまおうととんでもないことを言い出した。
無論、王達の臣下は激怒。自体は泥沼の様相を示しだした。
そして徐々に名指しされたおうちたちへの包囲網は狭まってきた。
このままいけば、押し切られるのは時間の問題だ。
レオナルドの頬に冷たい汗が浮かぶ。
今頃ミリエルは。そう思って、思わず誰かを聞きとして柴木倒している姿を思い浮かべ、立ちくらみを起こした。
「わかった」
圧力に耐えかねた誰かがそう口走ってしまった。
その馬鹿を呪いながら、レオナルドはため息をついた。
こうなったらそう見苦しい真似は出来ない、王とは人気商売だ。危険を冒すならたっぷりと恩を売れるようにふるまおう。
これがミリエル一人のことだったら、時間稼ぎをしているうちに自力で逃げてきているだろうが、ほかの貴婦人が他の手前動けないのだろう。
少数の騎士が、目立たない庭師の恰好で占領されあ小宮殿に向かった。
「屈辱という言う言葉を知っているか」
「あの女どもに手柄を奪われることだ」
サフラン商工会特殊部隊と騎士団は宿命のライバルと呼ばれている。
その特殊部隊出身の侍女たちに手柄を奪われ続けることに耐えきれなくなった騎士たちの暴走だった。
「行くぞ」
騎士たちはひそやかに突入した。