選択の時
一本の矢文が打ち込まれてきた。
顔ギリギリのところに打ち込まれた矢をひきつった顔で引き抜いた彼は手紙をむしり取った。
その手紙には、要求をのまねば、貴婦人たちの命はないと記されている
そこまでは予想の範囲内だ。
パーシヴァルはその内容を見て眉をしかめた。
「ええと以下の人間の身柄を要求する?」
ポリポリと頬を掻いた。貴婦人多数と数人の貴人の交換が要求されていた。
「なんだよこれ、まだるっこしいな、それならさっさと誘拐でもなんでもしろっていうんだよ」
「あの、あまり不穏当なことをおっしゃらないほうが」
そばにいる侍従が顔を青ざめさせて、主にそう進言する。
そしてパーシヴァルは周囲の事態を重く見て、集まったサン・シモンの重鎮型と、人質に取られている貴婦人が他の身内一同にその手紙を指示して見せた。
「犯人の要求をのんだとしても結局君は妻には会えないな」
そう言って隣にいる、実際は年上だが、義理の弟にその手紙を見せた。
要求された貴人の中に彼の名前も入っていた。
「さてどうしよう」
すぐに事態は沸騰した。
「こんな要求はのめないというもの」
壮大人の一人が叫べば、妻を人質に取られている貴族がそれでは妻はどうなると叫び、かの国の姫君を見殺しにできないと別の大臣が叫ぶ。
そのまま事態は収拾のつかない状況へと変わっていく。
「どうしたもんかね、これは」
妹が命の危険にさらされているというのに、けろっとした顔で、パーシヴァルはその状況を見物していた。
「他人事みたいな顔をしているが、他人事じゃないんだぞ」
その手紙にはパーシヴァルの名前も記されていた。
「さて、どうしよっかな」
お茶会も終えん近かったため、テーブルの上の食糧はほぼ食べつくされていた。
「お湯はあるけど、長期化したら苦しいな」
ミリエルは手近なテーブルのポットを振ってみる。半分ほどしか入っていない。
「それに、まあ、そろそろやばい」
ミリエルの予想通り、自然現象に追い詰められた貴婦人がたが、扉に飛ぶついて鬼気迫る形相で、ここから出せと泣き喚いた。
「まあ、あれだけお茶をがばがば飲めばねえ」
唇だけでつぶやくと、ミリエルも扉に飛びついた。
「交代で、お手洗いに行けるようにして」
結局ギリギリで、見張りつきという条件で、交代で行くことが許された。
「ご一緒しましょう」
ミリエルがそう声をかけたのはシファ伯爵夫人だった。
「良い香りですね、大変趣味のよい香料をお使いだ」
ミリエルの笑みにシファ伯爵夫人は眉をひそめた。
「状況によっては必要になるかもしれません。お貸しいただけますか」
ミリエルは笑みを浮かべている。しかし、目は笑っていない。
ミリエルは、かつて、武器一つを携えて、単独山中訓練を行ったことがある。その際、一口でも食べたらやばい毒草に関しては徹底的にたたきこまれた。
葉の形、色、茎、花、そして香り、覚えることは多岐に及んだ。
その知識は今も役立っている。王族と毒殺は日常だからだ。
毒を帯びた植物の香りはミリエルはいつでも嗅ぎわけることができるのだ。
シファ伯爵夫人は首にかけていたサシェから漂う香りもミリエルには嗅ぎなれたものだった。