旅路
ここからようやく本編になります。
特殊部隊不名誉除隊。ならびに強制帰国の章です。
鉄格子の向こうに青い空が見える。
ミリエルは窓の外を覗き込んだ。景色がゆっくりと流れていく。
今は森と森を繋ぐ平原を馬車は進んでいるようだ。
車輪が石でも踏んだのか時折大きく揺れる。
硬い木の床にお情けで置かれた灰色の薄汚れた毛布。それを敷いてミリエルは坐っていた。
両足に鎖の付いた足枷がはまっている。
歩くには支障がないが、走るのは少々難しい長さだ。
ミリエルの家を出て、この馬車に乗せられて、もう三日が過ぎた。
馬車の隅に、木箱があり、その中に陶製の壷が置かれていた。
用足しはここでしろと言われた。
三日間閉じ込められていれば、どうしても使用せざるを得ない。こもった臭気がミリエルの鼻を突く。蓋があるのが幸いだが。
それに入浴もさせてもらえない。
食事は一日二回、水とパンとチーズと果物が差し入れられる。
こんな生活を三日間続けてミリエルは自分がどういう扱いを受けているのか確信した。
護送車で連行される囚人。
馬車に乗せられる直前に見た。御者が坐る台座に、巨大な金具でくくりつけられた。窓の付いた箱のような乗り場所。
今は気候もいいので、鉄格子の付いた窓を閉じることが出来なくとも寒くはないが、自分の部屋より狭い中に三日間閉じ込められっぱなしという状況が快いはずもなく。
できることは、何故こんなことになったのかそれを考えるだけ。
普段どおりの日常だったはずだ。三日前までは。
その日、早朝に店の前の道を掃き掃除していたミリエルには見知らぬ男達に取り囲まれた。
そろいの、おそらく制服だろう。身のこなしから軍人ではないだろうかと判断する。
しかし、サン・シモンの軍人ではない。制服が違うし、髪をやや長めに伸ばしている。
サン・シモンの軍人は極端な短髪なので、制服を着ていなくとも軍人だと判断が付く。
どこの国の軍人だろう。
ミリエルは、大武道会で、他国の賓客の警護をしている軍人を見たことはあったが、具体的にどこの国の人間かを考えたことはなかった。
戸惑うミリエルに、その中の一人が一枚の書類を渡した。
斜め読みしたその内容は、ミリエルをサフラン商会特殊部隊から不名誉除隊に処すと書かれていた。
「すでにサフラン商工会から、手続きは終わっております」
そう慇懃に言われて、ミリエルはしばらく硬直していた。
不名誉除隊。それはサフラン商工会からの永遠の縁切りとみなされている。
特殊部隊や機動隊での活動は愚か、商店主としてサフラン商工会に参加することも許されない。
首都グランデではサフラン商工会に所属していない商人など、存在しないと言ってもいいので、この宣告は首都グランデ追放と同意義だ。 武器を突きつけられて、母と祖父も引き出されて来た。
ミリエルはそのまま今いる護送車に、枷を掛けられて詰め込まれた。
家族二人がどうしているのか、それは今のところわからない。
あのまま家にいるのか、それとも他の馬車で連れてこられたのかさえ。
次くらいに本国に入ると思われます。