表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン 未来編
182/210

ミリエルの平穏な日々

 手早く天幕が張られ、馬車を横付けする。ミリエルの姿が人目に触れないよう、マルガリータとコンスタンシアが、帳を掲げて、ミリエルの姿を隠す。

 一般庶民の目のあるところではお妃様はむやみに姿を現すものではないのだとか。

 ミリエルは苦く笑う。ミリエルは一般庶民の暮らす街で育った。それを考えれば何をいまさらという気持ちだ。

 しかし、しきたりはしきたり、どんなにばかばかしくとも目に見える弊害さえなければ大概のことには目をつぶろうと、ミリエルはいつになく寛大な気持ちでそう思った。

 椅子は繻子の布こそ使っているが、持ち運びに便利な折り畳み式だ。

 手早く髪を結い直す。

「マルガリータって、こういうことは意外に上手だよね」

 櫛を操るマルガリータにそう言えば、マルガリータは苦笑した。

「昔、やたらおしゃれでそう言うことに凝るやつが身内にいたからな」

 マルガリータの過去をいくらか知っているミリエルはそのまま黙る。

 マルガリータは髪飾りを二つほど取り替えた。

 コンスタンシアが、大小さまざまな刷毛を取り出し、ミリエルの顔を作る。

 ミリエルは、大小さまざまな刷毛がコンスタンシアの手で色粉をまぶされるの見ていた。

 コンスタンシアはミリエルの目を青く彩ることにしたらしい。

 

 コンスタンシアとマルガリータがそれぞれの道具箱を片づけると。衝立にレースの布をかけてミリエルの背後と左右を囲んだ。

 その背後に、自分達の道具類を隠す。これは毎度サヴォワを出てから何度も繰り返されたこと。それを見るたびに、これは芝居の舞台装置のようだと思う。

 雑多な道具を隠し終えたらミリエルの左右に控える。

 そして、入口に見える人影に合わせ、ミリエルは唇を軽く釣り上げた。

 何度も繰り返された茶番劇。最初は数えていたが、もう数える気もないそれを再び繰り返した。


 空疎なほめ言葉と要求、とりあえずミリエルにできることは、夫に聞いておきますというだけ。

「最近、平和ね」

 ため息交じりに呟く。

「お前の愛器を利用する事態になったらそれはそれで大変なんだが」

 すっかり呼吸が合うマルガリータが、こつんと仕草だけでミリエルの額をこずく。

 国内の混乱は徐々に収まりつつある。

 商店もそれなりに充実しつつあり、壊された建物も修復されたり新たに建てられたりするので、ひと月ごとに城下町の景色は変わる。

 そんな中、ミリエルの生活も落ち着いてしまった。

「単調な生活か」

 ミリエルは一応王妃なので、庶民よりはかなり贅沢な暮しをしている。庶民だったときもそれなりに生活は単調だった気がするが、やはりなんだか質の違う単調さだ。

「これからは、まっすぐに、サン・シモン王宮に向かいます」

 護衛騎士がそう言うと、ミリエルを再び馬車に戻した。

 馬車の中から見える景色は、なんとなく見覚えのあるものに変わっていた



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ