追憶の旅
お待たせしました、この話が終わったら完結です。
ガタガタと馬車が揺れる。馬車が悪いのではない。なぜならこの馬車は王室御用達、その馬車が悪いものであるはずがない。
ならばなぜ馬車が揺れるのか、それは馬車のいく土地の凹凸が激しいからだ。
ミリエルは馬車の揺れる振動に身を任せる。目を閉じれば、初めてサン・シモンを出た日のことを思い出す。
あの日とは逆に今はサン・シモンに近づいているのだ。
「ずいぶん揺れるな」
目の前の女官が呟く。同感と、もう一人の女官も頷く。
「仕方がないわ、サン・シモンは山岳地帯ですもの、私は、サン・シモンを出るまで、一度も地平線を見たことがなかったわ」
サン・シモンは基本、山あり谷ありの地形が過半数、平地が少ない。だから食料自給率もそれほど高くない。
それが、ご先祖を傭兵という出稼ぎに駆り立てたのか。そんなことを漠然と想像してみる。
ミリエルは気分が悪くなったのか、青ざめてプルプル震えているもう一人の女官に目をやった。
「あと少しで休憩場所よ、それまで我慢できそう?」
馬車によって、吐き気をこらえているコンスタンシアは、それでも気丈に首を前に振った。
ゆったりとした座席の取られた馬車は、通常の馬車より大きくそれに見合ったうスピードしか出ない。
のたのたのたのた馬車は進む。
ミリエルが、サン・シモンに向かっているのは別に里帰りというわけではない。ミリエルはリンツァーの王族という肩書で、サヴォワに嫁いだ。
基本サン・シモンと縁があることになってはいない。
今ミリエル達がサン・シモンに向かってるのは、近隣の王族を集めた定例会議が行われるのが、今年はサン・シモンだったからだ。
商業の動脈ともいえる首都直結の道を入れば、別の国籍の紋章をつけた、のたくた進む馬車とつき従う一団が合流してきた。
馬上の騎士がミリエルの乗る馬車の窓をたたいた。
「隣国アリオーニの方々と合流いたしました。妃殿下にお目通りいたしたいと申し出ております」
「陛下の許可はいただいたのですね」
ミリエルはそう一度念を押すと、了解したと答えた。
サヴォワ王妃であるミリエルにお目通りしたいと言い出すものは数多い。ミリエルのスケジュールのほとんどがそれで埋まってしまうことも珍しくはない。
まあ、ほとんどは夫である王への伝言がほとんどなのだが。
ミリエルはやれやれと、頬を撫でる。
これからロイヤルスマイルを作らねばならない。
マルガリータと、コンスタンシアが、仕事道具、ミリエルの容姿を整えるものを用意している。
全く面倒なことになったもんだとミリエルは今更ながら思う。