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暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン過去編
179/210

苦い勝利

 あらかた殲滅が終わった後、サフラン商工会の少年少女達は、この界隈からの浮浪少年達の完全撤退を要求した。

 敗残者となり果てた少年達。ただでさえ薄汚れ、弱り果てている彼らを見送る目は勝利のうまみなどなくどこか苦かった。

「どうなるんだろ、あいつら」

「さあな」

 そんなやり取りがあった後、残るのは沈黙だけだった。

「とにかく、われらは勝利した。連中の逆襲もないではない。全員、気をつけて解散」

 ミリエルがそう宣言した。

 脇腹からどくどくと血を流しながら。

「あの、ミリエル。大丈夫なの、それ」

 真っ赤に染まったブラウスを指差す。

 ミリエルが表情一つ変えないので、誰も追及できなかった。

 しかし、明らかに、通常の色白の範囲を超えてミリエルの顔色は白くなっている。

「まさか私が、この程度のことで大丈夫じゃなくなるとでも」

 ミリエルは笑っていなす。

 いや、歩くたびに血がつたってますけど。

 そう言おうとしたが、ミリエルは黙って踵を返す。

「解散だ、私も家に戻る」

「俺、送ります」

 ネズミがあわててそう言った。

「いい、一人で帰る」

「その格好で、ですか」

 そうネズミが言ったが、ミリエルは聞かない。

「これしき、一人で帰れないはずないだろう」

 そのままさっさと歩きはじめる。その背中に止められないものを感じて誰も後を追えなかった。


 結局、ミリエルは道の途中で出血多量による貧血で倒れていたのを祖父の知人に保護されて、家に送り返された。

 医者の治療が終わり次第、アマンダとダニーロによる延々と続くお説教が始まった。

 貧血で枕も上げられないミリエルは、黙ってそれを聞いていた。

 仕事があるからと、二人がミリエルから離れた時、お見舞いに来たマルセルがミリエルの枕元に果物を置いた。

「馬鹿か、お前は」

「どうせ、馬鹿だもん」

 ミリエルは唇を尖らせる。

「まあ、今回のことはお手柄だった」

 たちの悪い浮浪児がたむろすることは、商店街としては決して歓迎したいことではない。だからそれを排除したのはお手柄だった。

「だってどうしようもないもんね」

 ミリエルが呟く。

「サヴォワがなんとか平和になればあいつらもさっさと国に帰ってみんな丸く収まるけど、そんなの私にできるわけないじゃない」

「無理だな」

「ほかにできることなんてない、あいつらと共倒れになってやる義理なんかない」

 そう言って、ミリエルは唇をかみしめた。

「そうだ、その通りだ」

 それがどんなに残酷でも」

 そうマルセルは言った。


次話で、サン・シモン過去編は終わります。

番外編はもう一話、サン・シモン未来編を予定しております。

サヴォワ王妃となったミリエルが、サン・シモンを表敬訪問する話です。

武装メイドさんが活躍するといいな。

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