ミリエルは笑う。
ミリエルはほぼ日課になりつつある早朝掃除に勤しんでいた。
店の前にぶちまけられた砂利を片づけガラスの破片を箒で掃き集める。
小さく鼻歌を歌いながら、おけに水を汲んできて、飛び散った血を洗い流した。
そしてだいたいの片づけを終えるとミリエルはアマンダの用意した朝食を食べるために店の中に引っ込んだ。
学校に着くと仲間たちが笑顔でミリエルを迎えてくれた。
「私はね、頭から水をかけてやったわ」
お下げにした少女が朗らかに笑う。
「俺はね来る方向が分かっていたから足を引っ掛けるひもを用意しといた。見事に引っ掛かったぜ」
くるくるした目の少年も楽しげに笑った。
そして全員同時に尋ねた。
「ミリエルはどうしたの?」
「砂利が降ってくる仕掛けを用意したの」
ミリエルは柔らかく微笑む。
「ちゃんとガラスの破片も混ぜておいたわ。血の始末が大変だったけどまずまずの成果ね」
朗らかだった空気が凍りついた。
まさかそこまでやる。張り付いた笑顔のまま固まっている彼らに気付かずミリエルは続ける。
「やっぱり、しばらく待っていたものこれくらいの仕返しは許されるわね」
なんとなく口を開く機会を失って、ミリエルの笑顔をしばらく眺めていた。
その時授業開始の鐘が鳴った。
そそくさと全員教壇に向き直る。
「おはようございます」
子供達の声が唱和した。
放課後、学校内で作戦会議は続く。
「まあ、これであいつらは少々逆上してるんじゃないかなと思うわけ」
少々だろうかと全員一致して、思ったことは内緒だ。
「だから三日、その間じっくり焦らしてやるの。焦らして焦らして、冷静な判断ができなくなるまでね」
ミリエルはそう言って全員を見回した。
「だから三日間、単独行動は慎むこと。それから、行動するときは最低五人。さもなければ大人と一緒に行動をとること、いい?」
「それはなんで?」
「それも焦らす一環よ、それと、もし家に来て今まで通り嫌がらせをするようならまた罠の餌食にしてやってね」
たぶん、ミリエルの家に来るやつはいない。そう思いつつ全員縦に首を振る。
「徹底的な惨劇で締めくくるわ、もう二度とこの界隈に出てこれないように」
ミリエルはそれはそれは可愛らしく笑った。