次の準備
猫は程よく腐っていた。
布巾で顔を覆い臭いを遮断し、木の棒を駆使して触らないように袋詰めする。
袋は二重にしなければ臭いが漏れる。
「腐ったのをたまたま拾ったのか、それとも程よく腐るのを待っていたのか」
吐き気をこらえながらミリエルは呟いた。
溶けた腐肉を掃除するために水を汲んでくる。
「これを何度も繰り返されれば逆らう気も失せるでしょうね」
ぼやきながら、中庭の花壇に穴を掘って死骸を埋める。
後片付けを済ませると、ミリエルは、学校へ行く支度をした。
学校へ行くと、呼子を吹いた時にいた仲間と、抗争した仲間を呼び集めた。
「うちに猫の死骸が投げ込まれてたの、ちょっと溶けかけてたやつ」
ミリエルの言葉に一緒にいた少女がおずおずと答えた。
「うちは窓に石を投げられて壊された」
「うちは生ごみが玄関に散乱してた」
それぞれの話をミリエルは黙って聞いていた。そしておもむろに口を開いた。
「しばらく我慢して、まずパターンを見極めるの、それまで我慢できる」
ミリエルの言葉に全員目を瞬かせた。
「我慢した分だけ、報復のうまみは濃いでしょう。されたことは倍にして返すのがサフラン商工会のやり口よ」
いや、それはあんたのやり口だろうと、突っ込みかけてやめた。
ミリエルの唇に不穏な笑みが浮かんでいた。絶対に性質の悪いことを思いついた顔だ。
くふふふふ、唇の中だけで無邪気に笑う。
ミリエルに聞こえないように、少女達は唇だけで、音に出さずに呟いた。
「敵に同情したくなることもたまにあるよね」
その日から定期的に、サフラン商工会の子供達の家に、嫌がらせは続いた。
ミリエルは夜が明ける前に起きだし、ことを起こす様子を確認する。
「今日は生ごみか」
なんだかローテーションがあるみたいだなとそんなことを考えながら箒と塵取を持ち出す。
ダニーロとアマンダは、この一連の事柄は黙認という形をとっている。
「そろそろ頃合いかな」
ミリエルはだいたいのパターンは読めたと考えていた。
「そしてあとはタイミング」
殲滅のための作戦はすでに立ててあった。
そろそろ実行に移すべき時が来ているだろうか。
最近、嫌がらせに、周りの仲間たちの限界もきている。
「それじゃ、そろそろ始めますか」
ミリエルは仲間に知らせる段取りを組み立て始めた。




