作戦の目処
集まってきたものはそれほど多くなかった。
ミリエルは背後に控え、集まってきた連中に任せることにした。
ミリエルは自分の容姿を知っていた。
母にあまり似ていない、可憐な少女、そのためその狂暴性のギャップで返って勇名をはせているということも。
だからあえてミリエルは後方に下がった。相手を客観的に見極めたかったというのもある。
サフラン商工会で鍛え上げられた少年たちは、ほぼミリエルの言う最善を体現して見せていた。
しかし、それはあくまで訓練での成果だ。訓練ではなく実戦での連弩は明らかに足りない。
そのうえ相手にはためらいがない。まともに石で殴りつけた。
再びミリエルは呼子を吹いた。
それが仲間を呼ぶ合図であることは察したのだろう。あっさりと逃げ散った。
殺しをためらわない。それがミリエルの受けた最初の感想。
「動くな」
そう言ってミリエルは頭を割られた相手の顔を覗き込む。
「骨に異常はないな」
皮膚が浅く切れただけなのを確認しミリエルはため息をつく。
「厄介だな」
さいわい石で殴られても相手の怪我はそれほど重症ではなかったが、こういう攻撃を繰り返すような相手を前に、できる限りこちらの犠牲者を出さない方法を考えねばならない。
こちらにいくら犠牲が出てもいい、相手を殲滅できればなど馬鹿のやることだと、祖父からもきつく言われている。
あれはまともに相手をしても馬鹿を見るだけ。
学校で普通に授業を受けた後、少女たちの他愛ないおしゃべりにかこつけて、情報収集怠りなく、ミリエルは聞きかじったという少女たちの話を聞いていた。
「知ってる?あの連中に逆らうと報復されるのよ」
栗色の髪の少女がそう語った。
「報復?」
ミリエルが聞き返す。
「そうね、いろいろよ、道で歩いていたら、物をぶつけられたり、それか家までつけてきて、家の中や外でめちゃくちゃにするんですって」
声をひそめて、ミリエルにそう耳打ちする。
「それを何回か繰り返すと、逆らう気も失せちゃうんですって」
ミリエルはそれをどこで聞いたのか聞き返した。そして、それを隣町の、あの浮浪児たちと抗争した親戚の子から聞いたと教えてくれた。
「なるほど、報復ね、一体いつどれくらいされるか聞いたことある?」
「だいたい早朝ね、あまり人目につかない時間にやるみたいよ」
「なるほど、早朝」
ミリエルはあごに手をやってしばらく考え込んでいた。
翌朝、ミリエルの雑貨屋の店先に、猫の死骸が放り込まれていた。