戴冠式 後日
襲撃はあっけないほど簡単に終わった。
まず、数が少ない。ミリエルとマルガリータの戦闘能力を知っていれば、そしてサヴォワでは陰でその噂が広がりつつあった。もう少し大目の刺客を用意するはずだった。
たった三人の刺客に二人は思わず拍子抜けしてしまったほどだ。
まあ普通なら女官とお姫様しかいない場所に刺客が三人となれば楽勝だと普通は思う。しかし、今回は逆の意味で楽勝だった。
不幸なのは最後に倒された者だ。
仲間があっという間に血祭りに会い、それぞれが武器を構えて立つ間に挟まれ右往左往している間に血煙をあげて倒れた。
全員致命傷は避けてあるが、いっそ死にたかったかもしれない。
「ミリエル、衣装に返り血など浴びていないだろうな」
「大丈夫、十分距離をとったし、マルガリータこそ、ちょっと飛んでるよ」
「大丈夫だ。どのみち黒いし、女官のお仕着せなら着替えもいくらか支給されている」
「まあ、必要経費だよね」
床にはいつくばったままそんなのんきな言葉を聞いていた。
ミリエルに足の骨を叩き折られて立つことができないのだ。
すでに顔見知りになっていたマーズ将軍は以下はそれを見て顔をしかめた。
「担架を用意しなければならないので、今度このようなことが起きたときにはできれば足の負傷は避けていただけませんか妃殿下」
それだけ言うと手早く拘束して、そのまま連れ去ってしまった。
「しかし、あまりにも弱すぎないか?」
思わずマルガリータが呟く。
「あの程度で、何とかなると本気で思われたのかなあ」
ミリエルが少し傷ついた顔をする。
「なんだか、サヴォワの人間じゃなかったような気がする」
マルガリータがとっさに思いついたことを口にした。
マルガリータは他国を放浪していたので、しばらくサヴォワに滞在していれば、微妙な人種の差や、着ている着こなしの種類なども判別できる。
たぶん別の国、それがどこだったか少々ど忘れしてしまったが。
「とりあえず、別の場所に移ろう。ここで、何か遺留品を探すらしいから」
交戦している間に落ちたらしい武器が床に散らばっている。
ミリエルは鼻を鳴らした。
扱えない武器などいくら持ち込んだって重荷にしかならないだろうに。
ミリエルの元に、パーシヴァルやレオナルドが戻ってきたのはすでに夜が明け始めたころだった。
ミリエルは頑張って起きていたが、そろそろ限界が近い。
二人がここまで遅くなるなら少しぐらい仮眠を取るべきだったかと後悔していたところにようやくやってきた。
「ミリエル、なんか肌荒れしてない?」
パーシヴァルが余計なことを言う。
「大丈夫よ、若いから、これから三時間ぐらい寝かしてもらえば何とか回復すると思うわ」
ミリエルが力強く宣言する。
「じゃ手短に」
そう言って、パーシヴァルはレオナルドにした説明を繰り返した。
「それに、あのおじいちゃんは噛んでいたの?」
ミリエルの問いに、パーシヴァルは複雑な顔をした。
「噛んでいたと言えば言えるけど、利害がまったく一致しないからね、いろいろと牽制してたみたいだ、だからあの人が失脚するまでは動けなかったんだよ」
「なんだか、パンケーキみたいね」
「どういう意味?」
「ひとつじゃなくて何枚も重なってたってこと」
「まあ、そうだね、あの人は、サヴォワ王の一番の重臣になって権力を握りたがった。そしてまあ、あの国とこの国」
そう言ってパーシヴァルは地図を指でこする。
「これらはサヴォワを乗っ取りたがった。で敵は共通だけど、相争うことになったわけ」
「これで終わりじゃないのね」
「たぶん一生かかるよ、この解決には」
それをミリエルも疑うつもりはなかった。