首都グランデの作戦 9
すいません 長くなったので最後の一話といいましたが二話に分けます。
闇になれた視界の中にひょろりとした人影が映る。たまたま居合わせた使用人かと彼は刃物を抜いた。
刃物をつかんだ手を振りかぶった瞬間、人影が大きく揺らいだ。
いつの間にか横にいた若い男に、腕を思いっきりひねられる。
嫌な音がして肩が外れた。
「危ないな、声をかける前に刃物を振りかぶったよ」
肩を抜かれる激痛の中それでも悲鳴を殺す相手に、ウオーレスは頭に踵を叩き込み気絶させた。
「カティン邸へようこそ」
まるで高級食堂のウェイターのようにウオーレスは一礼する。そしてその背後では金蔵の扉が開き。それぞれの得物を片手に屈強な男達が現れる。
「そして、わが特殊部隊の罠にようこそ」
今までは貴族御用達の高級品販売の商人達を相手にしていたが。カティン、庶民相手に薄利多売戦略で、販路を広げる彼に目をつけたのは裏を書いたつもりだった。
彼が商うのは、調味料。基本の塩から、諸外国果てははるか遠い別大陸からも製法を学んだ珍味まで幅広い。
だから、ごくたまにではあるが、超高級品が彼の商いに引っかかることがあるのだ。
希少な珍味という代物が。
外国から製法を学んだ珍味ではなく。極めて希少な動物を使った正真正銘の珍品をさる王族が所望という噂。そして、それは、鎮魂慰霊祭の夜に引き渡された額の礼金があるという噂。それがサフラン商工会が流したブービートラップであることを今ようやく気付いた。
鎮魂慰霊祭ではいろいろと人が少なくなるので、他の貴族御用達店では警備兵が駐在しているのに、ここは少し外れた場所にあるので巡回ルートから外れていたのも。すべて。
押し入って来た人数は十数人。大して相手は四人、本来ならば相手にならないはずだった。
しかし、彼らは特殊部隊の名を知っていた。
一騎当千徒歩大げさでも、その精鋭ならば一騎当十くらいはありうるということを。
逃げようとしたその後頭部に、鎖付きの分銅が襲う。
女性の腕ほどもあるごく太い鎖に、握り拳ほどの分銅が付けられていた。
「心配しなくても、殺しはしないよ」
傘をかけられ、照らしたいものだけを選択的に照らす蜀台に照らされた凡庸な若い男の顔。それが意識を失う寸前に見たものだった。
倒れた仲間を見下ろし、しばし茫然としていた、しかし、最初の男が音もなく忍び寄り、骨の砕ける鈍い音とともに、もう一人倒れる。
蜀台の明かりのもと鈍く光る刃が見えた。
「逃げるぞ」
後ろにいた者達が、泡を食ってその場から離れる。
背後で、肉を撃つ音、そして金属の軋る音が響いた。
そして何か液体のこぼれる音も。
泡を食って走り出した目の前に、この家の女中の姿をした少女が立ちすくんでいた。
今度こそ、本当に最後です。サン・シモン編は