戴冠式 当日 6
パーシヴァルの顔を見てレオナルドは怪訝そうな表情を浮かべる。
パーシヴァルはこういう時、とっかえひっかえ貴婦人たちの相手に精を出すのだ。
きちんとよりによって、いい情報を握っている夫君のいる人妻やそこそこの身分の令嬢などに。
たった一人しか踊らずに、パーシヴァルが舞踏会の輪から離れるなどめったにない。
「ミリエル、どうやら君は疲れているね、少し席をはずすことはできないか?」
パーシヴァルの言葉にミリエルは首をかしげる。
ミリエルが疲れているのは確かだが。しかしもともとの基礎体力が違う。
そうそうのことでへばることがないということもわかっているはずだ。
「お兄様、私は別に」
控えめなお姫様ぶりっ子で様子を探ってみる。
「ミリエルを少し休ませてやりたいのですが」
そうレオナルドに進言する。
ミリエルの眉根が少々寄る。
どうやら何か企んでいる。ミリエルはパーシヴァルの顔を見た後その企みに乗ることにした。
ミリエルとマルガリータだけが、その部屋の中にいた。対外的にはミリエルが緊張から体調を崩しマルガリータが付き添っているという形だ。
ミリエルは確かに体調を崩していたが、それは、夜も開けきらぬうちから叩き起こされ、不規則でなおかつ過小な食事のせいだった。
ミリエルは温めたミルクをもらいながら、マルガリータと並んで長椅子に座っていた。
「さて、兄さんたら何企んでいるのかしらね」
何か企んでいることが前提なのかとマルガリータは突っ込みそうになったが、先ほどのことを考えると、大体の展開は読めた。
「普通、妹を囮にしますか」
「ある意味とっても手っ取り早いけどね」
茶碗をおいてミリエルが呟く。
まあ、王の婚約者にレベルアップしたミリエルを襲えば、拘束する理由としては十分すぎる。
その辺を読んでいるのだろう。
マルガリータは少し考え込んだ。
例の黒幕の老人とその一派はすでに拘束済みだし、残党がいたとしても、今時分は動くのにきわめて不適切だ。
とするとなんだろう。
考え込んでいるマルガリータに、ミリエルは軽く笑って言った。
「そんなの、とっ捕まえて吐かせればいいのよ」
ミリエルはまったく動じた色を見せない。
まあその通りなのだ、今ここで考えていても埒は明かない。現れた者達を確実に生きたまま捕らえること。
それができればあっさり解決する問題なのだ。
ミリエルが長椅子からゆらりと立ち上がる。どこかで何かが開いたとマルガリータは思った。
かすかに空気が動いた。
ミリエルが横目でその源を見極めると、マルガリータの影に身を潜めた。
マルガリータはスカートの陰に隠れていた件を抜いた。金属を打ち合わせるかすかな音がミリエルからした。
次回はレオナルドとパーシヴァルのターンで戴冠式当日は終わりです。




