戴冠式 当日 5
スティーブン・ウォルバーグはやれやれと笑う。
さすがあの妹の兄というべきか、それともあの祖父の孫というべきか、パーシヴァルは思った以上に食わせ物だった。
おそらく何らかの腹積もりがあるのだろう。
「お手並み拝見といきますか」
去っていくパーシヴァルの後姿を見送りながら彼は笑った。
「まあ、大体見当はついているんだけどね」
手の中の杯を弄びながらパーシヴァルは呟く。すでにリンツァー本国では怪しい動きを察知していた。
サン・シモンの祖父にも話しを聞きたいところだが、あいにく時間がなかった。
手紙をサヴォワに出してくれと、住所だけを入れた手紙を出したが、たぶん察してくれるだろう。
問題は、レオナルドとミリエルにどう伝えるかだが。
もしくはミリエルにどう伝えるか。
何しろ血の気の多い妹だから、うかつに話せば嬉々として喧嘩に向かいかねない。
まあ、すでに目星はついている。
パーシヴァルは誰がミリエルに杯を渡したのかはっきり見ていた。そして、自分の侍従に、相手をつけろと命じている。
命じた誰かに接触するまで離れるなと。その命令も実行されるだろう。
問題はすべて秘密裏に行わなければならないということだ。
しかしそれもハンディではない。何故なら向こうも同様の制限を課せられているはずだからだ。
パーシヴァルは落ち合った部下に、杯を渡し、証拠として保存するように命じた。
今は舞踏会に戻らねばならない。
王の婚約者、次代王妃の兄が不在では悪目立ちすること請け合いだ。
舞踏会では、パーシヴァルはおそらくレオナルドについで目立ちまくっていた。
大国リンツァーの王族というだけでなく。その容姿も目立つ一因だった。
白皙の貴公子という単語の例文のようなその姿に誰もがため息をつく。
一塊になった貴婦人が流し目をくれているのに、適当にダンスに誘う。
くるくると踊りの輪が広がるのを上段の王とその婚約者が並んで見ている。
絵のようにお似合いのお二人だと歯の浮くようなお世辞を口走る人間の姿をパーシヴァルは表情の消えた目で見ていた。
この中でレオナルドを祝福している人間が何人いるだろうか。そしてレオナルドはどれほどの人間が祝福しているか悟っているだろうか。
いや、心配することはないだろう。レオナルドはそうした人の機微に聡い。
そして妹は、利害関係のシビアさをあの若さでこれほど知っている人間も珍しい。
それはある意味かわいそうなことなのかもしれないが、何しろ、今日の好き日にも喜びに浸れないということなのだから。
踊っていた相手とはなれた。相手は眉を一瞬だけしかめたが、次の瞬間にはきれいに微笑んで見せた。
名演技に感心してパーシヴァルは改めてミリエルの元に向かった。
ミリエルは、踊りがはじまってから、やっと静かになれると少し息を抜いていたようだった。