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暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン編
16/210

首都グランデの作戦 8

 


 ひそかに、荷物にまぎれてミリエルは、邸内に入った。

 そこで用意された衣服に着替える。

 白い袖が膨らんだブラウス。紺色のボディス付きスカート。白いボンネットはスカートと同じ紺色のリボンでまとめられていた。

 そこに白い胸まであるエプロンをつければ、この家の女中さんのできあがりだった。

 大きな家では、家ごとに女中の制服がある。どこの女中かすぐにわかるようにだ。

 ここの制服はまあ可愛いとミリエルは思った。

「ミリエル、このドレスは酷いな」

着替えたミリエルにいかにもおとなしそうな青年が声をかける。

まっすぐな黒髪に、細面のひょろ長い体型をした彼は、いかにも印象の薄い。気弱そうな顔をしていた。

「ひどいでしょ、この泥汚れ」

「違う。袖の血の跡だ。泥は水ですすげば落ちるが血痕はしみになるんだぞ」

 馬鹿をぼこぼこにしたさい飛んだ鼻血が染み付いていたらしい。

「これはこちらで洗っておく」

 ひたすら恥じ入るミリエルだった。

「それでは、手はずはわかっているな」

 言われて頷く。まず侵入した相手が、獲物の場所に急行するはずだが、そこで待ち構えているのは、目の前の青年を含む特殊部隊の精鋭。

 そしてそこから逃れて来た連中を叩くのがミリエルの役目だ。

 いかにも特徴のない気弱そうな優男の顔に騙されて血反吐を吐いた者はもうすぐ三桁になるらしいと噂される青年は。初仕事に硬くなる少女の肩を叩いた。

「大丈夫、できる実力がなければ、抜擢なんかされないから」

 穏やかな笑みを浮かべる青年に、ミリエルも微笑返した。

「ウオーレスこそ、気をつけてね、貴方は武器を使わないんだから」

 ウオーレスは常に徒手空拳で戦う。たとえ相手が剣を持っていようが槍を持っていようがお構いなしで。それでいて負けたことはない。

 限りなく最強に近い男と呼ばれている。

 ミリエルも、親友のモーニングスターや、それ以外の武器を使ってもおそらく彼には勝てないだろうと感じている。

 次元が違う気がするのだ。

 かつて特殊部隊入隊試験で、熊を素手で倒したという伝説の男。

 所詮暗器を使って猪どまりの私のかなう相手ではない。そういう問題ではないことをミリエルは気付いていなかった。


 この屋敷の金蔵に特殊部隊の精鋭は潜んでいた。

 前方にはウオーレスが立っていた。武器を使わないので余計な音が立たないがゆえの配置だった。

 かすかな囁き声でウオーレスが呟く。

「ミリエルは少し緊張していたみたいだけど。大丈夫そうだったよ」

 その言葉にぴくりと反応したものがいる。

「その名前を言うな」

「ミリエルは、お前のためにああしたんだよマルセル」

 かつて妹に猥褻行為を働こうとした相手を血祭りに上げるのを妨害されたことを彼は今も少し根に持っていた。

「確かに、あれが最善であったことは認める。生き地獄に落としてくれたのも感謝している。だがやっぱり俺の手で血祭りに上げたかった。それだけだ」

 陰鬱な告白に、周囲の空気も凍る。

「まあ、これからやってくる誰かさん達と、存分に楽しもう」

 扉は、わざと軋るように細工がしてあった。その軋る音が聞こえた。

 ウオーレスの背後で、仲間達が武器を構えた。



 後一話で、首都グランデ編は終了予定です。

 そしてミリエル特殊部隊編も終了する予定です。

 次はミリエルお姫様編です。

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