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暁の星とともに  作者: karon
サヴォワ編
159/210

戴冠式前日

 ミリエルは眼下に広がる都市を見ていた。

 少しずつだが、焼け焦げた色は減ってきて、新しい屋根を葺き替えたり、破壊された家屋を解体して更地に戻す作業が進んでいるようだ。

「まあ、あの状態の町に各国の賓客に通ってもらうわけには行かないもんねえ」

 屋上の手すりにひじを乗せた状態でミリエルはつぶやいた。

 ミリエルの上には、巨大な日傘が差しかけられている。

 もうすぐ冬になろうとしているこの季節に、日傘を差しかけられるのは迷惑以外の何者ではないが、貴婦人として極力日差しにあたらないようにと女官たちが問答無用で差しかけている。

 城の最上階で、ミリエルは街の復興を確かめているのだ。

 本当は実際に城下に降りてみたいが、それは周囲が一致団結して止めた。

 最近は城の散策もやりつくして、ミリエルは少々退屈していた。

 レオナルドは相変わらず忙しそうだが、ミリエルは、王妃になるのは来年だからと少々羽を伸ばし気味だ。

 さすがに高い場所で吹きっさらしにされていれば身体が冷える。

 サヴォワはミリエルの育ったサン・シモンより気候は暖かいはずだが、それでも冬は寒い。

「まったく、真冬に戴冠式なんて、賓客の皆様もご苦労よね」

 サヴォワは、国中が荒れており、街道の整備も同時進行で行われているはずだ。

 そして城の中も大掃除でごった返している。

 賓客用に部屋を整えねばならないのだが、あの埃が絨毯よりも分厚そうなあの部屋を掃除かとミリエルはため息をつく。

 夕食を共にとっているとき、レオナルドが呻いていた。

『あのくそ爺、国庫からくすねた金を俺への寄付にしてやがった』

 フォークで焼肉に、憎しみを込めてつきたてながら怨念のこもった目をあらぬ方向に向ける。

 ミリエルとしては、何も言うこともできずに、慰める言葉が見つからなかったのだがただ黙ってそこで食事を続けていた。

 ミリエルとしては、今、自分の部屋にいたくない気分だった。

 リンツァーから、戴冠式に着るようにと衣装と宝飾品が届いたのだ。

 白地に、金糸で刺繍が施されたそれは、朝日を浴びて燦然と輝いていた。

 ミリエルとしては、あんなもん着れるかという気分だった。

 ミリエルの身長の二倍はある白い毛皮のマントまでついていたのだ。

 あんなマントを身につけたら絶対一人で歩けない。

 マルガリータが哀れみに満ちた瞳で、あれは、女官たちがマントの裾を捧げ持って多分三人がかりで歩くことになるだろうと教えてくれた。

 それに小さいとはいえ、なんかやたらと目立つ宝石のついたのティアラ。

 小さいとは思えないずっしりとした重量感。それは純金だからだよと親切にマルガリータが教えてくれた。

「見せもんじゃないってのよ」

 ミリエルは口汚く罵る。

 ここにパーシヴァルがいれば、君を次代王妃として印象つけたいだけだよと答えるだろうが、今はいない。

 戴冠式までには帰ってくると、リンツァーの使者とともに本国に帰国してしまっていた。

「あれ、なんか忘れてるような」

 ミリエルは首をかしげる。しかし思い出せないならそれまでのことだとミリエルは吹っ切って階下に温かいお茶をもらいに行った。


 ミリエル、かなり致命的なことを忘れています。お茶を飲んでいる場合じゃありません。

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