リンツァーからの使者 3
パーシヴァルは居住まいを正し、ミリエルは立ち上がって一礼する。
その二人を横目に、レオナルドは使者に向き直った。
「遠路はるばるご苦労だった」
形式の言葉を口にすると、使者はひざをついてレオナルドに一礼する。
「陛下よりの親書です」
レオナルドは書状を押し頂くと。まずそれを開いた。そして使者を見やる。
「即位に当たっての援助に関しては感謝すると申し上げてください。そしてミリエルとの婚儀の日程ですが、一年後を目安に考えております」
レオナルドははっきりと言った。
「一年後ですか、それは少々遅すぎでは」
レオナルドは怪訝そうな顔でミリエルを見た。
「ミリエルはまだ十五歳、それを考えればさして遅いことにはなりませんが」
もっともな反論に使者は黙る。
「財政状態を考えれば、どうしても即位式と婚礼を短期間に立て続けに行うことは不可能なのですよ、それで援助を増やしていただけるといわれても、市街地の復興にこそその資金は使いたいため。どうしても婚礼を日延べすることになります」
理路整然とそう言われてしまえば後は返す言葉も見つからない。
「ミリエル様は必ず娶っていただけるのでしょうな」
どうやらこれを一番言いたかったようだ。レオナルドは苦笑した。
「ミリエルは即位式の席次で、一番の上座に座ってもらうつもりだ。未来の王妃としてね。そして即位式に来た各国の来賓がたにも王妃として紹介する。それで納得していただけようか」
不承不承といった風だが、使者は納得したようだった。
「では、殿下のその返答を、陛下に伝えねばなりませんので」
再び使者は立ち上がると、その場で一礼し足早に去って行った。
「一休みぐらいしていけばいいのに」
パーシヴァルがため息をついた。
「大変ね」
ミリエルが感情のこもらない口調でつぶやく。
「それで、私はどうすればいいの? このままサヴォワにいればいい、それとも婚礼までリンツァーに帰っている?」
「君をリンツァーに帰せば、それこそ婚約破棄にとられない。このままここにいればいい」
その言葉に、ミリエルは少し安堵した。どちらを言われようと、従うつもりはあったけれど。
「まあ、リンツァー側がミリエルと早々に結婚してほしいと望む理由はわかるけどね」
パーシヴァルはしみじみと述懐した。
「君がミリエルに怖気ついたと思われているんだよ」
「怖気ついたって」
レオナルドは苦笑する。
「少なくともミリエルは最低限の意思の疎通ができる、だからその戦闘能力をどうこう言おうとは思わない。大体そんなことで怖気ついていたら世のか弱い女性は男に近づくこともできないだろう」
レオナルドの妙に実感のこもった言葉に、ミリエルは少々引っかかる。
「どういう意味かな?」
「普通の女性は、殆どの男よりか弱いものだ。しかし、だからといってすべての男が女性に危害を加えるわけではないだろう。その能力を乱用するかしないかは本人私大だ」
「あれ、なんか私信用されてる?」
「ああ、ミリエルは利害関係で説得可能だからな」
少しあんまりな信用されようではないかとミリエルはひくひくと頬を強張らせた。
次回から戴冠式編になります。