リンツァーからの使者 2
まずマルガリータが扉を開き、脇に控える。
静々とミリエルが入ってきた。
そのそそとした風情に目を細める。ミリエルは相変わらず愛らしい。
そのミリエルに目を向けると。使者は深々と一礼した。ミリエルは応用にそれを受けて、パーシヴァルの指し示したソファに腰掛けた。
その背後にマルガリータが控える。
明らかにリンツァー人ではない女官を連れてきたミリエルに使者はわずかに眉をしかめた。
パーシヴァルがミリエルに自分宛の書状を渡した。
「お兄様は、帰国なさるの?」
ミリエルは一読してそうたずねた。
「もちろん、これは国王命令だからね、一度は帰国しなけりゃならない」
パーシヴァルはそう言って。ミリエルの頬を撫でる。
「もちろん君をおいていくのは心苦しいんだけど。レオナルドの言うことを聞いていい子にしていられるよね」
結い上げられた髪を崩さないようにぽんぽんと軽くたたくとミリエルはにっこりと微笑んだ。
「大丈夫よお兄様。ここでの知り合いもできたし、ちゃんとここでおとなしくしているわ」
「いい子だ、ミリエル」
この、しらじらしいを通り越した会話を、動かない表情にあきれをおし隠したマルガリータは黙って聞いていた。
はっきり言って二人の性格をよく知っている自分には鳥肌ものなのだが。使者は神妙な顔で、二人の様子を眺めている。
「ご兄弟を引き離すのは心苦しゅうございますが。これはミリエル姫様にも陛下から書状がございます」
そう言って差し出された書状をミリエルは押し頂くと封蝋をはがして中身を確認する。
「あら、いつごろ婚礼をするのかって書いてある」
ミリエルは首をかしげた。
「こういうことはレオナルド殿下に聞かなければならないのではない?」
書状を折りたたんでミリエルはもっともな問いを放つ。
「私に答えられないわレオナルド様も、もうすぐいらっしゃるから、そのときに聞いて頂戴」
マルガリータがミリエルに変わって書状を受け取る。
「ミリエル様から何もおっしゃらないのですか?」
「だって何が言えるの?殿下はいろいろお忙しいし、難しい難題を抱えていらっしゃるのよ。私が口出ししていいことではないわ」
「陛下の代弁をすれば、ミリエルに殿下をせっついて婚礼を早めてほしいんだよ」
パーシヴァルが口を挟む。
「でも、確かに、今の財政状態じゃ、国家君主の婚礼なんて金のかかることはレオナルドはやりたくないんじゃないか」
ミリエルも同感だ。ミリエルはおそらく嫌われていないと思っているが、これとそれは別物だ。
なおも言い募ろうとした使者は、王太子が来たという先触れに口をつぐんだ。