パーシヴァルの鬱憤晴らし
パーシヴァルはミリエルの部屋からまっすぐにレオナルドの執務室に向かった。
「やあ、レオナルド、ミリエルに会ってきたよ」
すがすがしいほど胡散臭い笑みを浮かべた旧友の姿にレオナルドは眉をしかめた。
「あの子の身に別条がなくて本当によかった」
秘密裏にされていたが、ミリエルが誘拐されていたことになっている。そのため、今現在執務室は蜂の巣をつついたような大騒ぎなのだが、パーシヴァルは、その光景が目に入っていないかのように、レオナルドの執務机の前に立って、へらへらと笑っている。
その顔を正面から見たレオナルドには、パーシヴァルの目が笑っていないのがはっきりと見えたが、無言で手にした書類を机の上でそろえただけだった。
「それはそうと、僕の知っている人だったんだって、犯人は、以外だったねえ」
周囲を無視してまくし立てるパーシヴァルに、レオナルドはため息をついた。
「パーシヴァル、君の妹を危険な目にあわせたのは俺も悪いと思っている」
パーシヴァルは白々しいほど大仰にレオナルドの手をとって滔滔と語る。
「君が悪いと思うことはないよ、すべての非は許しがたい謀反人にあるんだから」
レオナルドに忠誠を誓っていたと殆どのものに信じられていた老人の、突然の拘束に、レオナルドの周辺はゆれにゆれている。
中には冤罪ではないかと噂する者たちもいる。
挙句はミリエルの陰謀ではないかというとんでもない噂を立てる人間すらいる始末だ。
レオナルドとその側近たちはその騒ぎの収束させるために勤めているが、いまだ収まる気配すらない。
そこにパーシヴァルの登場だ。パーシヴァルは状況がわかってこういう態度をとっているのが丸わかりだし、執務室に出入りする人間は、好奇心丸出しの顔でパーシヴァルの一挙一動を凝視している。
「パーシヴァル」
レオナルドはゆらりと立ち上がった。
「君が言いたいことはよくわかっているよ、今度のことでか弱いミリエルがどれほど傷ついたか、俺が気にかけていないと思っているのか?」
レオナルドが白々しい言葉を吐けば。
「そんな、君がミリエルをないがしろにしているなんて」
パーシヴァルは情感たっぷりに身を捩じらせた。
「そんな風に疑ってると思われていたなんて、心外だよ」
レオナルドはいい加減この寒い芝居をやめてほしかったのだが、パーシヴァルはのりのりだ。
「でも、いまだ信じられないよ、本国にいたとき出入りしていただろう」
そのことに、パーシヴァルも感心していた。実際ナダスティの黒幕だったのに、リンツァーの応急に出入りして、あちらに妙に思われなかったのだろうかと。
おそらく言葉巧みに丸め込んだのだろうが、その技術は盗みたいと思うほどだ。
「そうだな、しかし」
最初に教えたときはそれほど驚いていなかったよな。
視線だけでレオナルドは語っていた。
「ミリエルはどうしている?」
ミリエルと戻ってきた後話す機会はなかった。レオナルドは仕事に忙殺されてしまい、ミリエルと一言も口を利くことはなかった。
ミリエルは、あのときのレオナルドの身もふたもない発言をどう思っているだろう。
「ミリエルなら元気だよ、マルガリータに怒られてたけど」
その言葉に小さく息をつく。
気にしていないことに、傷つくべきか安堵すべきかわからなかった。