パーシヴァルの憤慨
パーシヴァルはすべて終わってから、一部始終を聞かされて、大いにむくれた。
「で、結局ミリエルが誘拐されたことにするわけ?」
行儀悪く背もたれにあごを乗せた姿勢でパーシヴァルが訊く。
「まあ、これでつじつまを合わせる気なんだろうな」
レオナルドがかつてミリエルが誘拐されたと臣下に誤情報を流していたことを思い出しながらつぶやく。
「だって、本当のことはとても言えないもの、王太子の婚約者を誘拐したってことにして重罪に問うつもりらしいわ」
ミリエルはソファの上で、ため息をついた。結局マルセルとウォーレスもついてきてしまったが、二人は部屋の隅でたたずんでいる。
「それはそうと、君、僕に請求してってそちらに言ったんだって」
パーシヴァルが意地悪くミリエルに笑いかける。
「だって、お金もってそうなのってお兄ちゃんしか思いつかないし」
「レオナルドがいるだろう」
「いま、確実に財布の紐が固い人間でしょ」
ミリエルがまぜっかえす。
「お兄ちゃんならゆるいと思ったの」
パーシヴァルが口を尖らせる。
「だってあるでしょ」
ミリエルは多少の疚しさもあってあさっての方向を見て言う。
「まあ、初めてのかわいい妹からのおねだりだし、とりあえず言い値で払わせてもらう。ただしどうせ金があるからってぼったくりはなしね」
パーシヴァルはそう言って、ウォーレスを見た。
「僕が規定料金を知らないって思わないようにね」
ウォーレスは無言で頷く。
あのダニーロの孫相手にぼったくりを働くほど命知らずじゃない。
「じゃあ、後で請求書を作ってよ、きちんと書類になってないなら踏み倒すよ」
冗談めかしてそういえば、ウォーレスも苦笑いする。
「あんたもダニーロの孫なら知っているだろう。サフラン商工会の掟を、請求書はきちんと回すし、踏み倒しも許す気はない」
そういいながら、ウォーレスはパーシヴァルを値踏みしていた。
初めて会うミリエルの兄はなんというかつかみ所がなかった。
ミリエルの婚約者だという王太子殿下とは好対照だと思う。
あの人物はかなりわかりやすい。わかりやすければいいというものではないが。おそらくああいう夫を持って、ミリエルはずいぶんと苦労する羽目になるだろう。
一見貴公子だが相当苛烈な性格をしている。そして猜疑心が強い。
ミリエルのような能天気で果たしてついていけるのだろうか。
本来の兄を差し置いて、兄のような心配をしてしまう
「あのな、ミリエル……」
あのときの王太子の言動を聞いてどう思った?
そう問おうとしたウォーレスだが、ミリエルは怪訝そうにウォーレスを見ている。
「これから、側近たちで、あのおじいさんの始末を考えるらしいよ」
ミリエルは、質問を間違って先回りして見せた。
「あたしは、正式に結婚してないから部外者なんだって」
そう言ってミリエルは唇をへの字にする。
「直接の被害者なのにね」
「いや、直接の被害者はコンスタンシア」
マルガリータが突っ込んだ。