剥ぎ取られた黒幕
まず案内役の男が扉から叩き込まれた。次いで先導役の騎士が武器を構えて慎重に入る。
次にレオナルドが入り、その後ろからミリエルがそろそろと入る。
レオナルドの背中越しからミリエルの目に飛び込んできた光景は粗末な椅に腰掛けた老人と床に身を投げ出した女、その背後で抜けた髪をつかんで間抜け面でこちらを見返す男。
ミリエルはそのまま再びレオナルドの後ろに隠れた。顔を見られるのはまずい。何故なら椅子に座っている老人はミリエルの記憶にあったからだ。
となれば、老人にもミリエルの顔に見覚えがあるだろう。
マルガリータを引き寄せて、レオナルドと、マルガリータの隙間からミリエルは様子を見ることにした。
「ずいぶんと変わった場所に、執務室を持っているのだな」
レオナルドは淡々とそうつぶやいた。
レオナルドは、感情のない目で床に突っ伏した女を見下ろす。
かすかにうめき声が聞こえるので、まだ生きているのだろう。おそらくそう深い傷を負ってはいないはずだ。嗅ぎなれた血の臭いがしない。
「まあ、ここにいる理由はすでにわかっているがな」
レオナルドの突然の登場に老人があわてて、立ち上がる。
「殿下、何故ここに」
レオナルドはつまらなそうに答える。
「部下にお前を見晴らせていたからに決まっているだろう。そこにいる連中もその過程で捕らえたものだ」
思いっきり壁にたたきつけられて目を回している二人を指差すと、レオナルドの脇を固めていた騎士が、ゆっくりと老人に近づいていった。
ミリエルは、レオナルドの脇からその様子を見つめていた。そろそろと顔を上げたコンスタンシアが、上目遣いに様子を探っているのが見えた。
「別に、そう驚くことか、奴がただ踊らされただけの傀儡だと気がつけばその背後にいた人間を探そうと思えばさほど難しくない」
「何故、私を疑える、あなたが国を追われた時誰よりもあなたを援助した私を」
「疑えるさ、あの日以来、私は誰も信じていない」
レオナルドは、老人の絶叫をあっさりといなす。
ミリエルは、かつて自分の足元にひざまずき涙を流してよかったと喜んでいた老人の有様を見て小さくため息をついた。
そして思う。いったい何をやりたかったんだろう。
この国で、相応の地位についていたはずだ。さもなければ、王族の一員、おそらく一応という注釈がつくとはいえ、そうした人間に近づくこともできないはずだ。
ミリエル自身、リンツァーに連れてこられるまで、貴族というものは遠くから眺めるものだった。
それに、おそらく、レオナルドは、氾濫を完全に計画しえる能力にも着目したのだろう。
能力と地位、その二つを持って何が不満だったのだろう。
「お前は何がしたかったのだ」
レオナルドも同じ疑問を持ったのだろう。
「国をこれほどまでに荒廃させてまでして」
老人は、震えながら口を開いた。
「私のほしかったのは、君主たる方の信頼でした」
老人は信じられないという顔で、レオナルドを見る。