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暁の星とともに  作者: karon
サン・シモン編
15/210

首都グランデの作戦 7

 前の話を改稿しました。

 それと今回やや長くなっております

 鎮魂慰霊祭当日、ミリエルはいささか緊張気味で、練習室で舞台用の服に着替えた。

 この日のためにアマンダが用意してくれたのは綺麗なラベンダー色のドレスだ。

 絹はとても買えないが、木綿地としてもきめが細かくとても上等だ。

 鎮魂慰霊祭のために新しい衣類をあつらえる家はミリエルのところだけではない。

 楽団メンバーのほとんどが新しいおろしたての晴れ着を着て誇らしげに笑っている。

 秋は布地問屋や仕立て屋の書き入れ時といわれている。

 周りでは大型の楽器を運び出している大人たちがいる。

 これから第七地区の大神殿に向かう。そこで、十二の地区ごとに選ばれた楽団が楽曲や歌唱を奉納する。

 地区の若い順番から奉納が始まるので、ミリエルの出番はすぐだ。

 緊張の面持ちで少女達は街を歩く。

 その背後からは別の場所で練習をしていた少年達もいつもよりもぱりっとした礼装姿で付いて歩いていた。

 同じように歩いてくる色鮮やかな集団に、ミリエルは目を細めた。

 神殿の前には馬車が横付けされ、二桁台の地区番号の楽団をおろしていた。

 さすがに稼いでいるだけあって向こうの少女達は絹のドレスを来ていた。

 周囲の少女達は羨望の溜息をつく。

「ミリエルも器量では負けてないのにね」

 そんなことを言う友人にミリエルは苦笑した。

「絹なんて着付けていないものを着たって似合わないと思うから」

 家の収入を思えばこんな晴れ着があること事態が贅沢だ。ミリエルはそう言って先を急ぐ。少年少達はそれぞれ、あてがわれた控え室に通された。舞台の脇の部屋で、小窓から演奏している姿が覗けるようになっている。

 第一地区の演奏が始まった。

 演奏曲は定番のものは一から十二にそれぞれ振り分けられている。

 最初は、建国の初っ端を歌った曲だといつも決まっている。滅びた土地を捨て去り、新しい土地を目指し放浪の旅に出かける曲。

 第三地区はこの国に建国する前においてきた故郷の神を慰める曲。物悲しい寂しい曲だ。

 国の歴史の節目を歌った曲をまず歌い。作曲家のオリジナルに入る。

 それがいつもの手順だ。

 第二地区の演奏がそろそろ終わりそうだ。そう思ったミリエルたちは、自分達の楽器を取り出し始めた。

 竪琴の梱包を解いて、車輪つきの台にくくりつけられたそれを開く。背後に気配をかんじ振り向いたとき、いきなりそれは来た。

 綺麗なラベンダー色のドレスに茶色い泥汚れ。それが正面に立つ相手が投げた泥の塊だとすぐに気付いた。

 周囲の少女達が押し殺した悲鳴を上げる。

 目の前には第四地区の大っ嫌いな男。そして眼下には泥に汚されだめになったドレス。

 ミリエルは忙しく思考を走らせた。

 特殊部隊に入隊祝いに作ってくれた晴れ着はもう小さくなって着られない。もし着れたとしても演奏開始時間はもうすぐだ。家に戻って着替えてくる暇はない。

 ミリエルは腹をくくった。

「このまま出るよ」

 無表情にそう言うと少女達、第三地区のみならず、他の地区の少女達からも嗚咽のような声がこぼれた。

「せめて竪琴じゃなくてリュートにすればドレスの染みは隠れるんじゃ」

「いや、あの曲はリュートじゃ練習していない。迷惑になるから」

 ミリエルは努力して笑みを浮かべた。母がどれだけ覚悟を決めてこのドレスを用意してくれたのかわかっているだけに、笑うのは努力を要したのだ。

 仲間の少女達はかすかに涙を浮かべたけれど。ミリエルは泣かなかった。

 あんな奴に泣かされたなんて思われたくなかったからだ。

 第三地区の演奏開始を知らせる合図が聞こえた。


 ミリエルは、泥汚れの付いたドレスのまま演奏をやりきった。合唱のときは汚れたドレスが見えないように、後ろに立つように周りの少女達が誘導した。

 とにかく演奏は終わったのだ。

 ミリエルのドレスに少々場がざわめいたが、演奏を強行してそれを抑えた。

 万雷の拍手で退場すると。第四地区の少年達が、出を待っていた。

「ずいぶん汚いまねするものね」

 少女の一人が彼らを詰る。

「誤解すんなよ。あいつ一人でやったことだぜ、大体頭目を追われた段階で、あいつの味方なんて一人もいないよ」

 そう抗弁する相手にミリエルはその当事者の姿が見えないことに気付いた。

「どこに行ったの」

「ああ、先生に演奏する資格なしって叩き出された、その辺にいるんじゃないか」

 そういわれて、ミリエルは神殿の外に出た。案の定相手はふてくされてその場にたたずんでいる。

 ミリエルは無言で相手に近づき、顔面の真ん中に拳を叩き込んだ。

「ちょっと、川に投げ込んでくるね」

 満面の笑顔でそう言うと。ぼこぼこに殴られて気絶した相手の襟首をつかんでずるずると引きずっていく。

 こいつを川に投げ込んだら、いよいよメインディッシュだ。特殊部隊初出撃だ。

 ミリエルの表情は期待に輝いていた。


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