探索の果てに
薄暗く湿った空気にミリエルは眉をしかめる。
空気がよどんでいる。
「地下深くという場所はそれだけで危険らしい。空気が、呼吸するには不向きになってしまうことが多いらしいから。まあ、ここは地下水脈のおかげで空気が動くからそこまで危険になることはないが」
レオナルドがそう説明してくれるが、ミリエルのしかめた眉はそのままだ。
カンテラの明かりに照らされて、歪な岩の形が浮き上がる。
元々あった地下の亀裂を利用した通路だと察してミリエルの眉はますます寄る。
こんな亀裂が地盤の下にあって本当に安全なのだろうか。
「亀裂上には基本大きな建物は建っていない、この上はおそらく庭園部分だ」
ミリエルの考えていたことを察したのか、レオナルドはそう囁く。
それでもミリエルの眉はしかめられたままだ。
いまさら言っても仕方のないことだ。おそらく地下水脈という封じることの難しい水源目当てにこの場所に城を作ったのだろう。
水を止められたら一巻の終わり。しかし、この状況では地震がきたらやっぱり一巻の終わりのような気がする。
カンテラに妙に生活観のあるものが映し出された。
いくつも積み重ねられた樽。
水ならいくらでもあるはずなので中身はおそらく酒。それもかなり強いものだと、周囲に漂う匂いで判断がつく。
「どうやらずいぶん前からここにもぐりこんでいたようだ」
レオナルドが苦々しげに舌打ちした。この場所は、城の飲料水と直結している。何らかの薬物。水量自体が膨大なので、その薬物の量も膨大になるかもしれないが。それを投げ込まれていれば、城の住人のほとんどを行動不明にすることも不可能ではない。
水事態に細工をされてしまえば、いくら用心してミリエルに食事の用意をさせていてもまったく無意味だ。
樽は階段状に人の頭の高さまで積み上げてあった。
「ずいぶんいいご身分だ」
マルガリータが呆れたようにそれをカンテラで照らしながら呟く。
「上等な蒸留酒を樽でこんなに買い込むとは、どうやら相手は資金に困っていないようだ」
その資金源に思いをはせたのだろう。マルガリータの眉も不快そうにしかめられる。
レオナルドは、声には出さないが、おそらくマルガリータと同様の感想を持っているらしい騎士に先を急がせた。
その中で一人居心地悪そうに周囲を見回すマルセルにミリエルは近づいた。
「ウォーレスの気配はある?」
マルセルは首を振った。
「おそらく同様の出入り口は複数あるんだろう。ウォーレスなら、何か落とすかして来た痕跡を残すはずなんだが」
マルセルの口調は暗く沈みこんでいる。
「だよね、熊を素手で殺したウォーレス相手に普通の人間がかなうわけないし」
「たぶんわざとやられた振りして、そのまま捕まったふりをしているというところだろう」
ミリエルは腕組みをして考える。となれば問題は、ウォーレスが捕まったふりをしたままでいるか、それともそうそう脱出して、あたりを探索しているかどうかだ。
周囲には見方の騎士たちの呟く声と足音ぐらいしか聞こえない。
もし、ウォーレスが脱出して、それを気取られたとしたら、もっとざわめくとかしてもいいのではないだろうか。とにかく、ウォーレスの行動を敵は悟っていないということだ。
「どうやら、相手が来たようだな」
レオナルドが指差した方向には、一人の人影があった。