ウォーレスの探索
闇の中ぐるぐる巻きに縛られた男が、転がされていた。
ゆっくりと目を開くと、手首の関節を鳴らす。その音とともに関節が外れ、まず手首をいましめていた縄が緩んだ。
手首が外れると、次に、左肩を壁に押し付けて肩関節をはずす。そのままするりと縄から抜け出した。
そして再び外れた関節を戻すと、縄を適当に結びなおし、いざという時にはぐるぐるまきにされたままのような形に見えるよう偽装した。
服の袖には太さの異なる針金が仕込んであり、大抵の鍵ならこれではずせる。
準備万端でウォーレスは敵地に乗り込んでいた。
夜目は利くほうだが、いささか周囲の様子が見づらい。
手探りで、周辺を探る。
場所は、おそらく地下倉庫だろうと見当をつける。地下のワインセラーや穀物庫。
一応城だからそういう施設もかなり大掛かりだ。
ようやく扉を見つけて拍子抜けする。鍵がかかっていないのだ。
縄で拘束しただけで、完全に動きを封じたつもりだったのだろうと考える。そしてこのあたりには自分をここに連れてきた男の仲間しか入らないようになっているのだろうとあたりをつけた。
でなければ、何も知らない人間がうっかり扉を開けるかもしれないと、鍵をかけるはずだ。
扉に耳を押し付けて外の様子を探る。
物音は聞こえない。回りは全部敵だと思えば、かえってウォーレスには気が楽だった。
すべて血祭りに挙げればよしと、何も考えずにすむからだ。
ウォーレスのような人間には、敵味方混戦状態のほうがかえって気疲れするのだ。
縛られたふりをしてここで、誰かがくるのを待つか、それともここから出て適当な誰かを血祭りに上げて尋問するか。
ウォーレスはしばし黙考した
ミリエルは、今度はマルセルの訪問を受けていた。
マルセルは、ウォーレスがあてがわれた部屋に戻ってこないと告げた。
「でも、あのウォーレスだよ」
ミリエルは首をかしげる。自分があっさり返り討ちにするような奴らの仲間に、ウォーレスが遅れをとるはずがない。
「となれば、勝手に潜入してしまったとか」
マルセルの言葉にミリエルは勢い込んで頷く。
「そうだよ、きっと、それならありそう」
「何がありそうなんだ」
ミリエルの背後で、低い声が聞こえた。
ミリエルが恐る恐る振り向くと、そこには、マルガリータが腕組みをして仁王立ちしていた。
「それと、誰だ、その人は」
マルセルもマルガリータに睨まれて思わずすくむ。
「いったい何をしていたのか、説明してくれるよな、ミリエル」
ミリエルはそのままあとずさって窓ぎりぎりまで下がる。マルセルはさっさと窓から脱出した。
「薄情者~~」
ミリエルの悲痛な悲鳴が聞こえた。