ウォーレスの探索
ウォーレスは一人の、高位貴族の部下に目星をつけた。
高位貴族という輩は自分の手を使うことを極端に嫌う。そのために大量の人を雇っているのだ。
そして汚れ仕事は、それ専門の人間がいるものだ。
そして、汚れ仕事をしているなと思われる人間とすれ違えば、ウォーレスのような人間にはぴんと来るものがあるのだ。
何故わかるのかと問われても、はっきりと答えることはできない。ただ、その人間を包む空気のようなものを感じるのだ。
結局は同類を見分ける感覚なのかもしれない。
ウォーレスは、まともな商売よりも傭兵歴のほうが長い。
その男は、一見すると、何の変哲もない、茶色い髪と、琥珀色の瞳をした目立たない男だった。
そのあたりは、ウォーレスと通じるものがある。
向こうは自分に気がついただろうかと様子を探る。
その時、前方を歩いてくるものがいる。
長い黒髪を結い上げた、背の高いまだ若い女。ミリエルの女官の一人、そして唯一の騎士マルガリータ。
どうやらお目当ての男は、自分に気付いていない、自分が観察されているのに気付かずマルガリータを凝視している。
マルガリータは、その視線の意味をあまりよく理解していないようだ。
さして気にも留めないように歩いていく。
後をつけるかと思ったが、その背中をしばらく睨みつけていたが、息を吐いて反対方向に向かう。
ウォーレスは一度マルガリータを振り向いた。一度も振り返らずに歩いていく。
まあ、貴族のお嬢さん上がりだからと心の中で呟いた。
こういうことに気付くにはそれなりの年季が必要になるらしい。
この男の主の名前は、すでに割り出し済みだが、今の段階でミリエルに伝えるか否か。
それを考えて、今は保留にしておいた。
そのままその男の後をつけていく。
そのうち、城内でも人気のない場所に近づいていく。
この城内は、同じ規模の白よりもはるかに人手が少ない。少々廊下を外れればあっという間に数ヶ月人が入っていないのではないだろうかという場所になることも珍しくない。
男が入って行ったのもそんな寂れた場所だった。
「何の真似だ」
振り向きもせず男が囁いてきた。
ウォーレスは少々驚いた。どうやら、相手もウォーレスに気付いていたのだろう。
「何のことです?」
「ここまでついてきてその返事はなかろう。まともな奴ならこの場所に用事などない」
つまりおびき出されたか。
そう考えて、ウォーレスはむしろ相手に感心した。ウォーレスのいかにもおとなしそうな容姿に、みんな騙されてくれていたから。
だが、むしろ甘いと一人ごちた。一対一なら何とかなると思うあたり、さて、ここで叩きのめして、ミリエルに進呈するか、それとも。
ウォーレスは相手の出方を待った。
男は棍棒手に取った。気絶させて拉致するつもりだろうか。
それならば手はある。
数分後、気絶したウォーレスを担いで、男は隠し扉を開けた。そのあける様子を、薄目を開けてウォーレスが見ているのに気付かずに。




