こっそり暗躍
ウォーレスのわかる範囲で、ミリエルに関する噂を集めた。
ミリエル本人を知っている人間が聞いたら大笑いしそうなものもあるが、どうやら、一連の騒ぎは、下々の者達には伝えられていないらしい。
無論、ミリエルは今現在無事で、間違われた女官がどこかに監禁されているというだけだ。
一緒に来ていたマルセルが、ウォーレスに耳打ちして来た。
「どうやら、何人か内偵が入っているらしい」
「それって俺達か?」
「違うよ、どうやら、王太子殿下は、家臣達の腹を探り始めたらしい」
マルセルは、一人の偉そうな貴族の背後を、すべるように人目につかないように付けていく人影を見たという。
それはマルセルでなければ到底気付かなかったであろうという穏密ぶりだったそうだ。
「真剣に、コンスタンシアっていう女を助けようとしているのか、それともこの機会に膿を出そうとしているのか、どっちだと思う?」
ウォーレスの言葉に、マルセルは、目を瞬かせた。
「たぶん、膿を出すほうだろうな」
「ミリエルのほうは、真剣にコンスタンシアって女を心配しているようだったがな」
「まあ、昔から妙に面倒見のいい奴だったから」
「そういえば、集金はお兄ちゃんて言ってたが、金払いはよさそうか?」
「リンツァー王弟殿下の嫡男だ。生まれたときからでかい領地をいただいて、その領地から出る上がりをたっぷり溜め込んでる。ミリエルのお願いといえばいくらでも出すな、あれは」
「アマンダ姐さんもなんだってそんな金蔓置いていったんだか」
マルセルがやるせなさそうに溜息をつく
「しかたないさ、命には代えられない」
ウォーレスはそう苦笑した。
かの悪名高いアマンダが逃亡せざるをえないほど、王族という商売は過酷らしい。
その娘はどこまでやれるか。
「どうやら王太子さんは、すでに目星をつけているようだな」
ウォーレスは視線だけで先を促す。
「おそらく首謀者は絞り込んでいるはずだ。その中の誰かがおそらくそのコンスタンシアって言う女官をさらっただけじゃなくて、それ以外の背信行為をやらかしている。まあ本命はその背信行為の暴きたてだろうな」
マルセルの分析に、ウォーレスも頷く。
「その絞り込んだ情報は、ミリエルに渡すかな」
「さて、いい加減あの娘の暴走癖には気がついているはずだが」
マルセルは呟く。
「ミリエルがどれだけやれるか、よりも、あの王太子さんが、ミリエルにどれだけやらせてやる気になるかが鍵のような気がする」
マルガリータは、ミリエルの様子を見ていた。
「何もなかったろうな」
ミリエルはコクコクと頷く。
しかし、最近ミリエルの性格を掴んでいるマルガリータは目を細めてじっくりとミリエルの顔を観察する。
「本当に、何もなかったのか?」
ミリエルはがんばってシラをきりとおすことにした。