レオナルドの作戦
「どうする?」
質問は唐突だった。
レオナルドはパーシヴァルの顔を見返す。
「コンスタンシア嬢には気の毒だが、このまま逝ってもらう、それとも何とか救い出す?」
「質問の意味がわからないが」
首をかしげるレオナルドにかまわず、パーシヴァルは立て板に水でまくし立てた。
「もうじきリンツァーの使者がやってくる。そうすれば、ミリエルが応対せざるをえない。そうすれば、コンスタンシア嬢をさらった奴らも否応なし人違いに気付く。そうなればコンスタンシア嬢はおしまい、さっさと息の根を止めて死人に口なしだ」
パーシヴァルはそう言って笑う。
「このままだと確実にそうなるよね」
「そうしない為に色々と調べさせているんだが」
レオナルドはそう言って、部下からの報告書を指差す。
「そう、でもタイムリミットまでそう長くないよ」
「仕方あるまい、ぎりぎりまで粘るさ」
「ずいぶん優しいね、政治的に何の意味もない男爵令嬢相手に」
「意味ならある、彼女を見殺しにしたら、ミリエルが根に持つ」
パーシヴァルは笑みを消した。
「ミリエルのため?」
「それと自分のためだ、あまり益のない人間だとて、早々死なせたくはないさ、何しろこの国は死人を出しすぎた」
どこか、感情の死んでしまった、ガラスのような視線に、パーシヴァルは息を呑む。
「まあいい、それほど時間を書けるつもりはない。さっさとふるい落とすさ、パーシヴァル、お前はそこでさも沈痛そうな顔で、俯いていろ、すべてこちらでやる」
レオナルドがそう言ったとき、配下の一人が先触れに立った。
「殿下、おいでになりました」
「通せ、それから人払いを」
それから一分もしないうち、一人の老人がレオナルドの前に立っていた。
「殿下、お呼びとは?」
レオナルドが重々しく答える。
「ミリエルが連れ去られた」
息を呑む音だけが室内に響く。
「このことを知っているのは、私を除けばそこにいるパーシヴァル。そしてミリエルの二人の女官たちだけだ」
老人の身体がかしいだ。倒れる寸前で何とか持ち直し。レオナルドに向き直る。
「レジナルド侯爵、相談できるのは貴方だけだ、どうか力を貸していただきたい」
レオナルドの呻くような声音に、老人は、その手を握り締めた。
「殿下、この老骨に鞭打って、何とか妃殿下をお助けいたします」
「だが、ことがことだ、できる限りこのことは内密に」
滂沱の涙を流さんばかりに、老人は何度も頷く。
そして老人が出て行った後、また一人、今度は壮年の男性。
そして、相手の名前だけを変えてまったく同じやり取りを繰り返した。
ようやく六人目を終えたとき、パーシヴァルは頭痛をこらえるようにこめかみをもんだ。
「どう収拾をつけるの?」
「だから秘密裏にといったのさ、それぞれ自分の判断で動くだろう、あの連中の中にいることは確かだ。その動きを探ればいい、動くための大義名分はくれてやったしな」
「内、何人かは本当に何も知らないんだよねえ」
パーシヴァルの頭痛はいや増したようだった。