それぞれの現場検証
コンスタンシアは寒気を感じて目を覚ました。
目を開いたにもかかわらず、視界は暗い。不快な匂いが鼻を突き、眉をしかめた。
肩にかけて鈍い痛みを感じて小さく呻いた。自分は石畳の上にそのまま横たわっていたらしい。冷えと、体重の圧力のせいで、右腕が痺れて上がらない。
手探りで、あたりを捜索する。
しかし、手に触れるのは、冷たい石畳の感触のみ。
「どうして私ここにいるんだっけ」
コンスタンシアは、小さく呟く。
そして自分の一番新しい記憶を探った。
マルガリータを引き連れて、ミリエルが出て行く。それを自分は見送ってそれから、机の上の、ミリエルの書付を整理する。
整理といっても、ミリエルがつけたバツ印と丸印のとおりに閉じていくだけだが。
コンスタンシアは、基本的に、掃除や洗濯という小間使い仕事はできない。
そうしたスキルはミリエルのほうがよほどあるので、今のところできることはほとんどない。
書付の整理はあっという間に終わってしまったので、そのまま椅子に坐ってマルガリータが戻るのを待っていた。
その時、開くはずのない扉が開く音を聞いた。コンスタンシアは立ち上がろうとしたが、首筋に鈍器の当たる衝撃にそのまま意識を失った。
コンスタンシアは、何者かに暴力を振るわれ、意識を失ったことを思い出した。
「でも、ここはどこ?」
気絶した間につれてこられたにしてはおかしい。
コンスタンシアのいた部屋は、周囲の廊下にかなりの数の兵士が立っていたはずだ。気絶したコンスタンシアを抱えて突破できたはずがない。
「それにいったい誰が私を?」
コンスタンシアは、家族から見捨てられた娘だ。ましてもともとの身分は男爵令嬢。わざわざ連れ去る理由がわからない。
ミリエルは、自室に戻ると、ソファの周辺にしゃがみこんだ、
マルガリータが見落としたものも、自分ならば探せるかもしれないと、床にはいつくばって、視線を凝らす。
「ないなー」
「当たり前だ、そんな簡単に見つかるか」
次いでミリエルは、扉の鍵を調べる。
廊下に座り込んで、鍵穴を覗き込む。
「ミリエル、何をやっているんだ。こんな姿見られたらどうする」
マルガリータが慌てたが、ミリエルは、鍵穴の縁を指先でつついて、得心したように頷く。
「さらった奴は、鍵を持っていなかったみたい」
そう言って、ミリエルは鍵穴の近くを指でこする。
ミリエルの指先に、金属粉がついて、きらきらと光る。
「たぶん、針金かなんかで、無理矢理こじ開けたんでしょうね、こんな風に粉がつくということはついさっきの傷だよ」
ミリエルは粉のついた指をマルガリータに確認させた後、息を吹きかけて払った。
「だとすれば、中も傷ついている可能性もあるよね、部屋か扉を変えてもらうか、それとも中にいるときは、テーブルでも置いて進入禁止にするべきか」
「わかった、それはマーズ将軍に伝えておく。お前はさっさと部屋に入って、テーブルでバリケードでも作っておけ」
そう言って、ミリエルを部屋に押し込むとマルガリータは身を翻した。